数奇な運命を経て世界で活躍するピアニストが、終戦の翌年に描いた絵日記をまとめた『フジコ・ヘミング14歳の夏休み絵日記』(2500円)が、暮しの手帖社から出版された。
フジコは毎日、炎天下半日がかりでメリケン粉や缶詰の配給を歩いて取りに行かなければならなかった。しかし、厳しい母のもと、音楽家を目指してピアノの練習も怠らなかった。食料も十分でない時代に、そんな少女がいたのかとまず驚かされる。そして何より目をひくのは、鮮やかな色使いの水彩画だ。フジコいわく「見ながら描いたものは一つもありません」。センスのよいワンピースを着て笑う少女たちは、フジコが夢見た14歳の姿だ。思春期の背伸びともとれるが、戦争で「深い心の傷」を負っていたと知ると切なくなる。
巻末のショパン「バラード第1番」の古い楽譜も見逃せない。母の形見であり、初恋につながる曲であり、「終戦を迎えたとき弾いていた」曲でもある。随所に思い出がちりばめられている。(久田貴志子)=朝日新聞2018年8月18日掲載
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