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想像の翼を広げた先に待つものは… 「架空の島を旅する」本

 「好書好日」では、「旅する」をキーワードに、旅先で読みたい本などを随時紹介しています。一方、読んだだけで旅した気分になれる本もこの世には数多くあります。そのなかから、架空の島を舞台にした小説を集めてみました。想像の翼を広げた先にはどんな世界が広がっているのでしょうか。

  1. 海うそ(梨木香歩、岩波現代文庫)
  2. 南の子供が夜いくところ(恒川光太郎、角川ホラー文庫)
  3. 孤島の祈り(イザベル・オティシエ、集英社)
  4. パノラマ島奇談(江戸川乱歩、春陽堂書店)
  5. アマノン国往還記(倉橋由美子、小学館)

(1)海うそ
 昭和初期、若き研究者・秋野は南九州の遅島へ遺跡や植生の調査のために訪れます。古代、修験道によって開かれた島は、明治の廃仏毀釈で多くの寺が破壊されたものの、豊かな自然に囲まれて過ごす島民たちの生活のなかに、かつての信仰のよすがが残されていました。地図に残された「海うそ」という言葉について訪ね歩く秋野の道行きは、そのまま読み手を島内めぐりに誘ってくれます。50年後、秋野は再び島に訪れるのですが……時の流れの残酷さをひしひしと感じる一編です。

(2)南の子供が夜いくところ
 一家心中寸前だった少年タカシは、自称120歳の美女ユナに導かれ、南洋の島トロンバスにたどりつきます。一見よくある田舎に見えた島は、実は不思議に満ち溢れていた土地だったのです。野原に埋まって植物のように生きる海賊、十字路のピンクの廟に祀られた魔神、果実のような頭部を持つ人間の住む街。島を含む海域では人知を超えた出来事が次々に巻き起こります。日常から地続きの異界を描かせたら当代随一の筆者による時空を超えた幻想譚です。

(3)孤島の祈り
 日常を抜け出し、大西洋周遊の冒険に旅だった若夫婦が訪れたのは、南極圏の孤島でした。かつて海獣の捕獲基地で栄えた無人島の、氷河に覆われた絶景に喜ぶ夫婦でしたが、一瞬の嵐で船を失います。酷寒の地で取り残された2人のサバイバル生活が始まります。ペンギンを食らい、基地に残された資材を生かして暖をとる。果たして2人の運命やいかに……とここまでが前半。後半は別の意味でのサバイバル生活が展開し、自然よりも怖い現実が主人公を襲います。

(4)パノラマ島奇談
 乱歩の妄想力が爆発した一編です。自分と瓜二つの大富豪になりすまして大金を得た男が、かねて夢みた「地上の楽園」を無人島に作ります。島に渡るガラスのトンネルでは浦島太郎も驚くほどの極彩色の絶景が広がっており、人魚までが現れます。島に着くと白鳥人間が背中に乗るようにうながし、奇観が広がる島のあちこちで半裸の男女が戯れています。錯視などを利用した一大パノラマの描写は一度読んだら忘れられません。もちろん、最後にはみるも無残な結末が待っているのですけれど。

(5)アマノン国往還記
 モノカミ教団が支配する世界で、布教のためアマノン国へ送られた宣教師Pがたどり着いた地は、圧倒的な女性優位の国でした。男の姿はほとんど見られず、生殖は管理された精子を使った人工受精で行われ、人工子宮で育てられています。Pは、セックスを通して「男」と「女」のあり方を復活させる「オッス革命」を遂行すべく、奮闘を始めるのですが……。大江健三郎と並び称された奇才による暗喩だらけの壮大な艶笑譚。アマノンは我々のよく知る東洋の端にある「島」です。