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「富山は日本のスウェーデン」など、今週注目の新書4選(朝日新聞2018年9月8日掲載)

『富山は日本のスウェーデン』

 富山県の教育や福祉の充実や女性就業率の高さはあたかも北欧のよう。が、それらを生み出したのは、共同体と家族重視の保守的な土地柄だ。保革左右といった思想的な線引きでものごとを考えることが無効になり、それぞれの土地に根づいた政策の先進地に学ぶことが必要だと財政学者の著者はいう。子ども、高齢者、障がい者を一つの施設で受けいれる取り組みなどを紹介する。
★井手英策著 集英社新書・886円

斗南藩

 今年を明治維新150年ではなく戊辰戦争150年とみる歴史観がある。敗者となった会津藩士と家族は「朝敵」として新政府に下北半島を中心とする斗南(となみ)への移住を命じられた。やせた土地で住民との摩擦のなか、開拓民として教育に貢献した人や牧畜を興した人もあれば、士族反乱に参加、あるいは西南戦争に動員された人もいた。複雑な経緯の内戦の果て、人びとが選んださまざまな道を、長年の探索でたどる。
星亮一著  中公新書・886円

『転職のまえに』

 エリートではない「地味な普通の人たち」に向けた、個人的事情で転職する際の注意喚起の書。不安をあおるばかりの仕事論や転職論に振り回されるなと、人材育成論を専門とする著者はいう。日本の労働市場や雇用慣行はさほど転職の妨げにはならず、技術革新があってもそれほど仕事が大きく変わりつつあるわけではないという。それぞれに必要な仕事の能力とは何かを問い直す。
★中沢孝夫著 ちくま新書・821円

『ヌードがわかれば美術がわかる』

 解剖学者の美術批評家が、ヌードを見る際のツボを指南。古代ギリシアでは女性の裸体像がほとんどつくられなかったので、ミロのヴィーナスの身体もどこか男性的。対立する師弟だった黒田清輝と藤田嗣治だが、人物と風景をめぐる描写には意外な共通点が。古代ギリシア彫刻から印象派絵画、現代アートまで、系譜と魅力を語る。
★布施英利著 インターナショナル新書・821円