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観てから読むか読んでから観るか 「現役映画監督」本

 「好書好日」では、「観る」をテーマに、原作のある新作映画の公開時期に合わせ、映画と本、双方の魅力を伝えるべく、監督やキャストにお話を聞いた記事を随時掲載しています。映画本は名著の宝庫ですが、そのなかでも今後も新作が期待される監督の映画作りのメソッドが伝わる「現役監督本」を集めてみました。

  1. 「映画を撮りながら考えたこと」(是枝裕和、ミシマ社)
  2. 「映画術 その演出はなぜ心をつかむのか」(塩田明彦、イースト・プレス)
  3. 「映画はおそろしい 新装版」(黒沢清、青土社)
  4. 「映画にまつわるXについて」(西川美和、実業之日本社文庫)
  5. 「ただひたすらのアナーキー」(ウディ・アレン、河出書房新社)

(1)「映画を撮りながら考えたこと」
 カンヌ映画祭最高賞を受賞して、日本映画界の新たな顔となった是枝監督が、デビュー作「幻の光」から約20年間にわたって撮り続けた自作について「考えたこと」をつづった本です。もともとテレビ出身の監督が、「テレビなまりのある映画言語」を使い、試行錯誤を重ねながらも、一作ごとに経験を積んでいく様子が素直に記されており、一人の映画人の成長記としても読めます。

(2)「映画術 その演出はなぜ心をつかむのか」
 「月光の囁き」などで熱烈なファンを持つ塩田監督の実践的批評集。お気に入りの映画の一場面を取り上げ、演技と演出がなぜ観客の心をつかむのかを、スクリーンの中で起きていることだけを手がかりに解説していきます。俳優がどう動いているかという「動線」や俳優の「視線と表情」に着目した分析は、作り手ならではの所見に満ちており、読んだあと映画の見方が確実に変わります。

(3)「映画はおそろしい 新装版」
 国際映画祭の常連で、ホラー映画をこよなく愛する黒沢監督が、「怖い映画」と「映画の怖さ」についてつづった散文集。多くは90年代に書かれた文章ですが、小解説つきの「ホラー映画ベスト50」などもあり、ホラー映画好きなら必携の一冊です。ホラーに分類されない作品でも、随所に不穏なムードが漂う黒沢映画の秘密の一端を垣間見える本でもあります。

(4)「映画にまつわるXについて」
 寡作ながら新作が出るたびに話題になる西川監督の、映画作りの発想がどこからきているかがわかるエッセー集です。オーディション、動物タレント、音響など、制作現場のふとした風景を切り取る手つきが見事です。解説の寄藤文平さんの言葉を借りれば「ほとんど霜降り肉のような」文章。代表作「ゆれる」の制作過程をつづった「プロダクション・ノーツ」もついてます。

(5)「ただひたすらのアナーキー」
 80歳を超えてなお新作を撮り続けるウディ・アレン監督の作品を楽しめるかどうかは、ウィットに富みながらもシニカルでスノッブなセリフ回しに耐えられるかにかかっています。そんな会話にニヤニヤできる人におすすめなのが、この短編小説集。最新の宇宙物理学理論がいつのまにか下卑た艶笑譚になっている「のぼせ上がって」など、アレン作品の一場面を切り取ってきたかのような話が目白押しです。