批評家の東浩紀さんが代表を務める株式会社ゲンロンが、「ゲンロン叢書(そうしょ)」を出した。1冊目の『新復興論』を手がけた小松理虔(りけん)さんは、福島県いわき市在住の38歳だ。東日本大震災から7年半。繰り返し語られ、手あかにまみれた「復興」を、新たな視点で捉え直す。
8月末、東京・五反田のイベントスペース「ゲンロンカフェ」に小松さんが登壇。東さんやジャーナリストの津田大介さんら、約100人が耳を傾けた。
小松さんは福島テレビ記者やかまぼこ製造会社勤務を経て、現在フリーランス。東京電力福島第一原発沖の海洋調査を有志で続ける一方で、食や医療福祉関係のイベント、発信にも携わる。
小松さんが掲げたスローガンは「外へ開こう」。「今はもう、地元の人だけでは解決できないというのが実感」。現場発の「真面目にやる不真面目」を今後も続ける決意を見せた。
一方で、自らの過去の言動を振り返り、反省の弁を述べる。「防潮堤建設は地域の衰退を加速させ、(脱原発や放射能のリスクは)賛成と反対、敵と味方を分断してしまった」「互いの正義がぶつかり合い、自説を補強して異論に対抗するために、当事者であることを振りかざす。自分にもそうした時期があった」
震災後、県外からの伴侶を得た。生まれた長女は来月4歳。何も知らない世代だ。震災と原発事故の「当事者」は死者や避難者、県民に限らず、出身者や訪問者、消費者などにまで広がっていると考えるようになった。福島第一原発のトリチウムを含んだ低濃度汚染水の処分方法をめぐっても、「豊かな漁場はみんなのもの。国や東電と地元の漁業関係者だけの議論にしてはいけない」と。
東北各地を旅し、地域の文化や芸術、歴史に光を当てようとする仲間に出会ったことが閉塞(へいそく)感を抜け出す契機になった。「文化は、現実に立ち返るための迂回(うかい)路として有効なんだろうなと。娘のような世代にも伝える力がある」。今後も、地域の隠れた文化を掘り起こす見学ツアーに身を投じるという。(大内悟史)=朝日新聞2018年9月19日掲載
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