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滝沢カレンの「時計じかけのオレンジ」の一歩先へ

撮影:斎藤卓行

ここは、近未来のイギリス・ロンドン。
進化した社会は全てを機械任せになり職を失った人間も多かった。
40歳を過ぎれば自動的に退職するシステムとなり、社会が欲しがる人間は、若く頭が冴える15~35歳までとなっていた。

起きれば機械に囲まれ、家を出れば機械に触れ、そんな日々の繰り返しに飽き飽きとしていた、少年がいた。
名は、アレックス15歳だ。

アレックスの家族は、平凡な家庭だった。
特に貧乏でもなければお金持ちでもなく、家族もみんないたって健康だ。
つまり、幸せだった。

アレックスの仕事は、オレンジ畑でオレンジを機械に入れること。
ありきたりな機械に、不揃いなオレンジを入れていく。
太陽に照らされ照焼きのように光るオレンジを見つめ、思った。
このオレンジで何か楽しいことはできないだろうか。

機械によって不細工と判断され、見事に落とされた変なオレンジを家に持って帰った。
その時まだアレックスは、そのオレンジの力には気付いていなかったのだ。

その日はオレンジを机の上に置いて、眠りについた。
みんなが寝静まり、深い深い闇がかかった頃、アレックスは異変を感じて目を開けた。

あの不細工だったオレンジが、太陽のようにキラキラ光っている。
アレックスは驚き、オレンジに近寄ると・・・・・・。

「!?!?」

一瞬のことだった。
アレックスが目を覚ましたのは、オレンジ畑だった。
どこか見覚えのある畑だったが、見渡す限り畑や小さな家ばかりが並んでいた。
アレックスは夢の中かと思った。
だが、手の中でかすかに光るオレンジに気付く。

「あ、そうだ、僕は家に居たんだ」

アレックスはそのオレンジを片手に、小さな家を訪ねた。
そこには2人の老夫婦が住んでおり、アレックスを温かく歓迎してくれた。

アレックスはソファに座り、「見たこともない箱型テレビだなぁ」と不思議に思うと、ふと日付が目に入る。
まだアレックスが生まれる何百年前の日付。

アレックスは目を疑った。
確かに見覚えのあるオレンジ畑も、小さな家も、どこか違う。
不細工なオレンジのタイムスリップにアレックスは気づく。

絵:岡田千晶
絵:岡田千晶

アレックスの時代では、「タイムスリップ」という言葉はかなり馴染みがある。見ただけではタイムマシンとは分からないような形で、街中に存在しているのだ。
計画の失敗したもの、形が悪いものは平気で街に捨てられていた。
その“タイムマシン”を見つけて行政が管理する場所へ持っていくと感謝金がもらえる、という仕組みだ。だから、本当ならば、国に伝えなくてはならないのだった。

毎日仕事の日々に散々な気持ちになっていたアレックスは、「これはいいものを見つけた!」と胸をウキウキさせた。
誰かに話してしまったら大変な事になる。アレックスは自分だけの遊び道具として使おうと決めた。

タイムマシンの使い方ならこの時代は誰でも知っている。
何年何月に行きたい、とまでは設定できない。ただ時間を設定しておくと、その物体から強い光が出たときにタイムスリップでき、タイムマシンの物体が次に光るまでは基本的にその場からは帰れないが、物体に隠れているボタンを長押しすることで来た時代に帰れる。

だがこのボタンは基本的に緊急時にしか作られていないため、一度使ってしまうと、二度目はない。ただしそんな緊急事態など滅多に起こらないため、人々はあまり把握はしていなかった。

アレックスは、うんざりするような重い毎日がまるで一転し、ワクワクしながら生活するようになった。
仕事の合間にオレンジが光ると、そっと姿を消して様々な時代を巡り巡った。
行きたかった場所や、やりたかったことだの、仕事の時間だというのに構わず時計をセットしてはタイムスリップしていた。

毎日のオレンジ畑での仕事はだんだん休むようになり、家族との時間も減っていき、家族の心配をよそに、最初は暇つぶしだったタイムスリップも、いつしか毎日の大半はタイムスリップを楽しむようになってしまった。

それも分からなくはない。
だって、タイムマシンはみんなが欲しくてたまらない物だったが、非常に高価なため、平凡な家庭では手にすることすらできなかった。
まさかアレックスがタイムスリップをして遊んでいるなど、誰もが予想しない。

そんなある日。
いつものようにオレンジが光りタイムスリップに出かけたアレックスは、30年後の未来へとやってきた。
そこで、弱った父親の姿、母や妹が懸命に看病するのを目にした。
暮らしは今よりずっと貧乏になっていて、病院にすら行けないギリギリの生活をする自分の家族だった。

そこで、話されていたのは、アレックスの話だ。
「アレックスが戻ってきたら・・・・・・伝えてくれ・・・・・・アレックス、お前を本当に愛していた、何故、こんなことになってしまったんだ・・・・・・神よ、アレックスをどうかどうか見つけてください」

アレックスは、耳を疑った。
僕は一体、30年間で何があったのか。

「お兄ちゃんは行方不明になってしまったけど、私たちはずっとパパのとなりにいるわ! 安心して」

「アレックスはあれからもう30年間も帰ってきてないわ。きっと・・・・・・もう・・・・・・」

絞り切れるような声でそう言った

アレックスは、身の毛を逆立てギョッとした。
タイムスリップしたまま、緊急ボタンを使い切ってしまい、その時代に閉じ込められているのか。
大切な家族を顧みず、仕事も行かなかった。そして稼ぎ頭のはずだった自分がいなくなり、家計はどんどん貧乏になっていた。

その時アレックスは初めて、自分の小さな遊びが家族と不幸の架け橋になってしまったことに気付いたのだ。

今までの自分をバカバカしく思った。
仕事もろくにしなくなり、家族との時間もなくなり、家に帰ることもままならず、家族に心配をかけていた。
だが、家族は誰一人としてアレックスを責めることはしなかった。

アレックスは家族の意味を知る。
その事がキッカケとなり、元の時代へ戻れなくなる一歩手前で目を覚まし、やっと自分の使命や夢を見つけることができたのだった。
アレックスは次の日、不細工なオレンジを国へ届けた。そして毎日、まじめにオレンジの仕分けに務めるようになった。

その働きっぷりと真面目さで、今ではオレンジ畑の支配人として、家族を幸せへと導いている。

時計仕掛けのオレンジは、実は数多く存在する。富裕層の間では飛ぶように売れ、時代が作った“人口減少マシーン”とも言われた。その正体は、格差を無くすために国が作った秘密兵器。数々の富裕層の行方不明情報は後を絶たない。

(編集部より)本当はこんな物語です!

 退屈な日常をもてあます若者はいつの時代もどの国にもいますね。カレンさんのアレックスはうさばらしをタイムスリップに求めますが、原作のアレックスは激烈な暴力の世界に引き込まれていきます。仲間たちと街中を練り歩き、盗みや破壊、暴行行為を繰り返します。しかし、そんな日々が長く続くわけはありません。高度に管理された近未来の国家は、やんちゃが過ぎる少年を矯正すべく、彼が行った行為を上回る「暴力」を加えていきます。

 カレン版では自ら更正するアレックスですが、原作版では、キューブリック映画とも異なる結末が待っています。ちなみに謎めいたタイトルはアレックスの暴力の犠牲となる作家が書いていた本のタイトルとして登場します。