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気がつけば抜き差しならぬ泥沼へ 「禁断の恋に身もだえする」本

 「好書好日」では、BL(ボーイズラブ)企画「BLことはじめ」など、「恋する」をキーワードにした記事を数多く掲載しています。でも、恋は本来「する」ものではなく「落ちる」もの。気がついたときには抜き差しならぬ泥沼へ踏み込むことも少なくありません。そこで、読めば身もだえする禁断の恋物語を集めてみました。

  1.  「ツ、イ、ラ、ク」(姫野カオルコ、角川文庫)
  2. 「モーリス」(E・M・フォースター、光文社古典新訳文庫)
  3. 「荒地の恋」(ねじめ正一、文春文庫)
  4. 「未来のイヴ」(ヴィリエ・ド・リラダン、創元ライブラリ)
  5. 「完全恋愛」(牧薩次、小学館文庫)

(1)「ツ、イ、ラ、ク」
 田舎町を舞台にした女子中学生・隼子と国語教師・河村との禁断の恋物語、と簡単にまとめることもできるのですが、それだけではこの小説の魅力は伝わりません。物語は隼子の小学校時代の日常から始まり、同級生たちの人間関係が群像劇のように描かれます。やがて彼らは中学生となり、性に目覚め、「事件」が起きるのです。そして20年後…。思春期の痛みを忘れかけた大人たちにこそ読んで欲しい大河ロマンです。

(2)「モーリス」
 少年時代から自らの同性愛嗜好に気づいていたモーリスは、ケンブリッジ大で運命的な出会いをします。教養に満ちた上級生クライヴ。2人の愛はまたたく間に燃え上がりますが、クライヴは突然、異性との結婚に踏み切ります。苦悶するモーリスが次に見初めたのは…。半世紀前まで同性愛が法で禁じられていた英国で長く封印され、著者の死後に日の目をみた、BL小説の先駆ともいえる作品です。

(3)「荒地の恋」
 53歳の詩人が親友の妻と恋に落ち、家庭を捨てる話です。よくある話にみえますが、戦後の詩壇を牽引した詩誌「荒地」に集った実在人物たちの不倫劇となると、興味をそそられる人も多いはず。天才肌の詩人、田村隆一の妻・明子と恋に落ちるのは、仲間内でもどこか地味な北村太郎。しかし、女性への恋情とともに詩への熱情を取り戻していきます。北村の評伝としても読める小説です。

(4)「未来のイヴ」
 英国紳士エワルドは、ビーナスのような肉体を持つ美貌の女アリシヤに一目惚れ。でも、恋人になった彼女の内面の卑俗さに苦悩し、自殺まで考えます。そこに現れたのが発明王エジソン。アリシヤそっくりな自動人形を作ってしまいます。さて、エワルドは人形を愛せるのでしょうか。ギリシャ神話のピグマリオンを下敷きに生まれた思弁的小説。押井守監督の映画「イノセンス」など現代の多くの作品に影響を与え続けています。

(5)「完全恋愛」
 終戦直後からほぼ20年おきに起きた、三つの謎めいた殺人事件。その背景には、画壇の巨匠となった男の秘められた恋があったのです…。恋愛と謎解きを融合した良質なミステリーなのですが、実はこの小説の最大の謎は、冒頭に提示される問いかけにあります。「他者にその存在さえ知られない恋は完全恋愛と呼ばれるべきか?」。ネタばらしは御法度ですが、読み終えたとき、禁断の恋に身もだえすること必至です。