「GAFA」とはグーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンの頭文字をつないだ表現だ。いまのデジタル社会を生き抜くうえで、この四つの巨大企業を理解することが絶対に必要だ――本書はそう説いている。
確かに、GAFA抜きの生活を思い出せなくなって、すでに久しい。ときには、巨大企業に自分のプライベートな情報を差し出している不気味さを感じる。書店や出版社の経営難や、雇用の喪失を聞くと、後ろめたくもなる。SNSによる社会の分断も心配だ。だが、圧倒的な便利さを経験すると、もう元に戻れそうにはない。
このすさまじい引力の正体は何なのか。著者は、あけすけな表現を多用しながら、4社に共通する、まがまがしいまでの「強さ」を描きだしている。
いわく、グーグルは脳(知識)、アマゾンは脳と指(狩猟採集本能)、フェイスブックは心(感情)、そしてアップルは性器(性欲)を刺激することで人間の心理に奥深く食い込み、破格の成功を収めた。
成り上がる過程では「盗み」は、成長スピードが速いテック企業のコア・コンピタンス(能力)。「政府をだまして助成金を引き出し」、情報を借りて「相手に返すときにお金を取る」といった手法も珍しくない。
そして、ひとたび成功すれば、新規参入を寄せ付けないように設備に投資して堀をめぐらす。米政府も反トラスト法などでの例外を認めているという。
著者自身が講演で「まず何か聴衆の気を引くことを言う」というように、4社の裏の顔をなで切りにする記述は痛快だ。
ただ、「少数の支配者と多数の農奴が生きる世界」への変容を描きつつも、その現実を変えようと訴えるわけではない。本書の後半では、GAFA後の世界を前提に、企業や個人が成功するための条件が検討される。
起業家出身のビジネススクール教授としての現実主義ではあるのだろう。とはいえ、どこか荒涼とした読後感も残る。
◇
渡会圭子訳、東洋経済新報社・1944円=3刷10万部。8月刊行。「薄々感じていたことの言語化。50~60代にも人気」と編集者。=朝日新聞2018年10月13日掲載
編集部一押し!
- オーサー・ビジット 教室編 今を輝こう しなやかに力をつけてね 教育評論家・尾木直樹さん@高岡市立横田小学校 中津海麻子
-
- 杉江松恋「日出る処のニューヒット」 加速する冤罪ミステリー「兎は薄氷に駆ける」 親子二代にわたる悲劇、貴志祐介の読ませる技巧に驚く(第12回) 杉江松恋
-
- インタビュー 井上荒野さん「照子と瑠衣」インタビュー 世代を超えた痛快シスターフッドは、読む「生きる希望」 PR by 祥伝社
- インタビュー 「エドワード・サイード ある批評家の残響」中井亜佐子さんインタビュー 研究・批評通じパレスチナを発信した生涯 篠原諄也
- インタビュー きょうだいユーモア絵本「ぼくの兄ちゃん」が復刊! よしながこうたくさんインタビュー 子どもはいつもサバイバル 大和田佳世
- BLことはじめ BL担当書店員の気になる一冊【2024年1月〜3月の近刊&新刊より】 井上將利
- インタビュー 新井紀子さん×山本康一さん対談(後編) 辞書は民主主義のよりどころ PR by 三省堂
- インタビュー 新井紀子さん×山本康一さん対談(前編) 「AI時代」の辞書の役割とは PR by 三省堂
- インタビュー 村山由佳さん「二人キリ」インタビュー 性愛の極北に至ったはみ出し者の純粋さに向き合う PR by 集英社
- 朝日ブックアカデミー 専門外の本を読もう 鈴木哲也・京大学術出版会編集長が語る「学術書の読み方」 PR by 京都大学学術出版会
- 朝日ブックアカデミー 獣医師の仕事に胸が熱く 藤岡陽子さんが語る執筆の舞台裏 「リラの花咲くけものみち」刊行記念トークイベント PR by 光文社
- 朝日ブックアカデミー 内なる読者を大切に 月村了衛さんが語る「作家とはなにか」 「半暮刻」刊行記念トークイベント PR by 双葉社