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動かぬ巨竜に支配される心の闇

池澤春菜が薦める文庫この新刊!

  1. 『竜のグリオールに絵を描いた男』 ルーシャス・シェパード著 内田昌之訳 竹書房文庫 1188円
  2. 『魔術師ペンリック』 ロイス・マクマスター・ビジョルド著 鍛治靖子訳 創元推理文庫 1620円
  3. 『『星系出雲の兵站(へいたん)1』 林譲治著 ハヤカワ文庫 907円

 (1)一つの山にも匹敵する大きさの竜グリオール。かつて魔法使いとの戦いに敗れ、動くことのできなくなったグリオールの周りにいつしか人々が住みはじめた。その巨大な体に絵を描き、絵の具に含まれる毒でゆっくりと殺そうとする画家の生涯をかけた戦いの話。グリオールの体内に入り込んだ鱗(うろこ)狩人の娘が見いだした、異形の世界の話。3話目は法廷劇、グリオールが生み出した宝石が引き起こした殺人事件。美しい女性に変化する竜と、それに恋をした男の異種恋愛譚(たん)。4本の短編からなる連作。あまりに強大なグリオールは麻痺(まひ)してなお、その思念で人々を支配する。しかしそれは本当にグリオールのせいなのか、それとも人の心の生み出す闇なのか。圧倒される傑作。

 こちらも連作中編集、ヒューゴー賞に輝いたビジョルドの(2)。ペンリックは道ばたで看取(みと)った老婆より、いや応なく魔と呼ばれる存在を継承する。彼に取り憑(つ)いたのは、10人の女性と馬とライオンからなる集合精神体。ひょうひょうとしていて天然ボケでとっても良い子、でも実は頭の切れるペンリックを探偵役に、辛辣(しんらつ)で老獪(ろうかい)な魔のデズデモーナを助手(ツッコミ?)に、様々な事件を解決していくミステリーでもある。しっかりとした世界観と設定、そして何よりこのコンビが最高!!

 ミリタリーSFはやや苦手なジャンルなのだが、ひと味違った切り口で抜群に面白かったのが(3)。今から4千年後の未来、地球を離れ五つの星系に進出していた人類は、異星人の襲撃を受ける。故郷である地球との繫(つな)がりはとうに絶たれ、孤立無援。広大な宇宙でいかに兵站(へいたん)をキープするか。裏方に光を当て、リアリティーとSF的発想の飛躍のバランスがちょうど良い。1人の英雄を軸に描かれることが多いミリタリーSFに対するアンチテーゼ、作中の台詞(せりふ)「英雄の誕生とは、兵站の失敗に過ぎん」が効いている。果たして人類は兵站を確保できるか、英雄が誕生してしまうか、それとも異星人が勝ってしまうのか。3部作の今後に期待。(声優・コラムニスト)=朝日新聞2018年10月13日掲載