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新書ピックアップ(朝日新聞2018年10月13日掲載)

『「働き方改革」の嘘(うそ)』 

 6月に成立した「働き方改革関連法」。労働者に優しい印象だが、実態は企業のための「働かせ方改革」だと一連の流れを取材してきた新聞記者の著者は言う。「誰が得をして、誰が苦しむのか」を平易に解説。裁量労働制の拡大をめぐる政権の思惑や策謀をドキュメントとして描くほか、欧州の実情との対比や、企業レベルで社員の幸福度を高めるよう努力している会社の事例を紹介する。
★久原穏著 集英社新書・907円

『本社は田舎に限る』

 著者が社長を務めるITベンチャー企業は東京のほか徳島県美波町にオフィスを置くことで、長年の求人難を解消した。社員は平日にサーフィンもでき、祭りにも参加して地縁を築く。過疎地の課題にリアリティーのある解決策を出せるようにもなった。古民家を改修してオフィスやカフェにするなど小回りの利く中小企業と田舎の相性はよく、都市と地方をつなぐ先端の景色を見せてくれる。
★吉田基晴著 講談社+α新書・929円

『デカルト』 哲学史上、最も有名な一文「私は思う、ゆえに私は在る」

 哲学史上、最も有名な一文「私は思う、ゆえに私は在る」。著者は、デカルトの重心は、「私は存在する」という主張ではなく、「無限なもの」としての神の観念を知ることにあると主張する。すべてが疑いうる中で、自己認識は、無限なものを求めていくというのだ。科学至上主義や合理主義、心身二元論といった通俗的なデカルト理解を退け、再解釈を目指す。
★ロランス・ドヴィレール著 津崎良典訳 文庫クセジュ・1296円

『小説は君のためにある』

 「文学」とは、「書いた人間が読者を特定できない文章」だと小説家の著者は言う。そして、文字の集合体は、読まれることで文学になる。では「読む」行為とは? 漱石やカミュなどを引きながら、非現実や多様な人間像を通して、読者が現実を見直し、自分は一人ではないことに気づく「経験」であることを説く。巻末にお薦めの小説案内を収録。
★藤谷治著 ちくまプリマー新書・842円