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スリリングな街の「ファントムたち」を肴に、世界的人気のミッケラーを独り飲み

文・イラスト:藤原ヒロユキ
文・イラスト:藤原ヒロユキ

To The Beer Bar~ちょいのみ親父の探訪記~ 第20回「ミッケラー・トウキョウ (Mikkeller Tokyo)」(東京・渋谷)

 「ミッケラー・トウキョウ」はミッケラーが経営しているビアバーである。
 ミッケラーは世界で最も成功したファントム・ブルワリーと言える。
 ファントムとは、「まぼろし、幻影、幽霊、おばけ」といった意味で、ファントム・ブルワリーとは、自分自身の醸造所を持たず、いろいろな醸造所で自らのレシピのビールを造ってもらったり、コラボレーションビールを造ったりするブルワリーのことだ。

 デンマークのコペンハーゲンで、ホームブルーイング(自宅でビールを造ること。日本では違法だが、海外では合法であることが多い)をしていたミッケルとケラーのふたりがミッケラーを始めたのは2006年。ミッケル+ケラーでミッケラーなのだ。

 ミッケラーは数々の醸造所でさまざまなビールを造り、世界中のビア通をうならせてきた。
 個人的には、アルコール度数13.1%のインペリアルスタウト「ブラックホール」や一種類のホップしか使わない「シングルホップシリーズ」、「同じホップでも産地が違うと香りや苦みが違うのか?」という疑問から生まれた「ホップテロワールシリーズ」が気に入っている。
 また、世界から人気の高いブルワリーを集めた「ミッケラー・ビア・セレブレーション」というイベントも主催していて、今年の9月には東京でも開催された。

 そんなミッケラーは、コペンハーゲン、サンフランシスコ、バンコックなど、世界各地に「ミッケラーバー」を作っていて、そのひとつが「ミッケラー・トウキョウ」である。
 ミッケラー・トウキョウは当初、渋谷の宇田川町にあったのだが、一旦閉店し、2017年4月に今の場所に再開した。

 新しいミッケラー・トウキョウはちょっとスリリングな場所にある。
 渋谷道玄坂の中ほどに「しぶや百軒店(百軒ダナと読む)」という看板をかかげたゲートがある。
 ここをくぐると百軒店と呼ばれるエリアで、1960年代までは渋谷で最も賑わいのあるエリアだったとのことだ。1970年代は有名なジャズ喫茶が数軒あって、音楽好きが集う場所だったとも聞く。その時代の話は音楽出版社の『渋谷百軒店ブラック・ホーク伝説』が写真もまじえて伝えてくれる。

 そんな百軒店の一角にミッケラー・トウキョウはある。
 で、なにがスリリングなのか? 

 道玄坂から百軒店ゲートをくぐり、ミッケラー・トウキョウに向かう道すがらには、ストリップ劇場やラブホテルや風俗店の無料紹介所が点在し、その先はラブホテル街につながる小路である。艶っぽいエリアなのだ。
 ミッケラー・トウキョウの向かいに、千代田稲荷神社という小さな神社があるのだが、歓楽街の神社の薄暗がりに、神聖な雰囲気よりも淫靡な匂いを感じるのはバチあたりな私だけだろうか? ちなみにこの神社の横もラブホテルなのだが、御利益があるのやらないのやら。って、どんな御利益だ?

 ミッケラー・トウキョウはクリーム色の壁にブルーのひさし。コントラストが素敵だ。デザインはアールデコっぽい? いや、ポストモダニズムだな、こりゃ。壁一面が窓になっていて、開くと縁側のようで気持ちが良い。
 1階にはカウンターがあり、タップの数は20。ミッケラーのビールやゲストビールが繋がっている。ホップの魅力があふれんばかりのニューイングランドスタイルIPAとチェリーを使ったフルーツビール、迷いに迷ったあげく「おきて破りの二杯並べ飲み」でスタートを切る。

 グラスのイラストはミッケラーのキャラクター、ヘンリーとサリーだ。ヘンリー+サリーでヘンサリー。ってことではないよね……。ミッケラーのデザインの多くは、イラストレーターのキース・ショア氏の作品である。ポップでかわいい作風が人気である。

 2階には、まったりとくつろげるテーブル席が用意されている。
 窓の外を見下ろすと、ラブホテル街に歩みを速めるカップルの姿が。その先を覗き込むのは野暮ってもんだ。
 暗がりにスッと消えていくファントム達。見て見ぬふりを肴に、私はもう少しこの店で独り飲みすることにしよう。

 渋谷の「ミッケラー トウキョウ(Mikkeller Tokyo)」。
 本当に、いい店だ。また訪れたくなる。