ライトノベルの金字塔とも呼ばれる神坂一(かんざかはじめ)の『スレイヤーズ』(ファンタジア文庫)。「盗賊殺し」「ドラゴンもまたいで通る」などの悪名で知られる美少女魔道士リナ=インバースが、立ちふさがる強敵と一緒にファンタジーのお約束をもなぎ倒す、型破りな物語だ。
1990年に第1巻が刊行された後、累計2千万部以上を記録するベストセラーとなったのをはじめ、文庫書き下ろしの長編シリーズと、雑誌『ドラゴンマガジン』連載のコメディー色の強い短編を並行して刊行する手法、声優・林原めぐみの主演による5度にわたるテレビアニメ化など、様々な形でライトノベルやそのメディアミックス展開の基礎を作った歴史的な作品である。その長編の新作が『ドラゴンマガジン』とファンタジア文庫の30周年を記念し刊行された。2000年の本編完結から18年ぶりとなる長編シリーズの新刊『スレイヤーズ16 アテッサの邂逅(かいこう)』だ。
物語は15巻終了直後、リナが相棒の剣士・ガウリイを連れて故郷を目指すところから再開する。立ち寄った街で野盗相手の用心棒を引き受けたリナたちだったが、やがて事件は人間とエルフの森を巡る抗争へと発展していく。過去にリナを苦しめた強敵が群れを成して再登場する一方、かつての仲間たちが心強い助っ人として登場する……というストーリーは、テレビアニメの劇場版を見るかのよう。とりわけ、おなじみ4人組の再集結は、ファンが待ち望んでいた瞬間のはずだ。
それにしても神坂一の小説を読むのは楽しい。とにかく読みやすいというのがライトノベルの特徴としばしば言われるが、神坂はまさにそれを体現している。読みやすく、それでいて雰囲気を損なわない描写に、効果的な擬音の使い方、テンポのいい掛け合いや、真剣な場面に笑いを交ぜ込む緩急のうまさ。多くの点でその後のライトノベルの範となったその文体は、現在においても、ひとつの到達点であり続けている。
おそらく、今でも竜破斬(ドラグスレイブ)の呪文を暗唱できる評者のようなファンは既に入手済みかと思われるが、これをきっかけに新たな読者を獲得し、世代を超えて愛される作品となってほしい。=朝日新聞2018年10月27日掲載
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