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「1とは」考えた子どもの反応楽しみ 独立研究者・森田真生さん初の絵本「アリになった数学者」

「アリになった数学者」の著者、森田真生さん

 「数学する身体」(新潮社)で小林秀雄賞を受賞した森田真生(まさお)さん(33)が今月、初の絵本「アリになった数学者」(福音館書店)を出した。テーマは「1とは何か」。「当たり前にみえることを理解するのが、いかに奥の深いことか。思い込みが通じない子どもが読む絵本で、根本を揺さぶられたり、枠を取っ払ったりしながら試行錯誤し本気で考えた」と話す。

 物語は、ある数学者が突然、アリになってしまうことから始まる。人間には当たり前すぎて説明すらできない「1」が、アリには伝わらない。アリに数はわからないのか。考えながら不思議な世界に迷い込む――。

 東大入学後、文系から数学科へ転向。卒業後は大学などに所属しない「独立研究者」として、数学や哲学といった枠を超えた探究を続ける。「姿、形のないものに関心を持ち続け、自分以外の人の気持ちをわかろうとするのが数学の根っこです」と話す。

 編集者が「大人たちはみけんにしわを寄せ考え込み、子どもたちは笑い声を上げて読む」という本を、画家で「はじめてであうすうがくの絵本」の著書もある安野光雅さん(92)はこう評する。「数学の核心にしっかりと触れた、とてもうつくしい絵本」

 森田さんは「子どもがこの本を読んで、1について考えるかはわからない」という。ただ、「1とは何かを真剣になって考えている現場に触れた子どもが、僕の想像もしない何かを考えるかもしれない」。そんな予想外の反応が一番の楽しみだ。(中村靖三郎)=朝日新聞2018年10月27日掲載