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老舗ビヤホールのビールのうまさを支える 「注ぎ職人」たちの華麗な手さばき

文・イラスト:藤原ヒロユキ
文・イラスト:藤原ヒロユキ

To The Beer Bar~ちょいのみ親父の探訪記~ 第22回「ビヤホールライオン 銀座七丁目店」(東京・銀座)

 1934(昭和9)年創建の「ビヤホールライオン 銀座七丁目店」は、現存する日本最古のビヤホールである。

 初めて「ビヤホールライオン 銀座七丁目店」を訪れたのは、今から30年前だ。
 20代を終え30代にならんとする青二才の私は、その場に一歩踏み入れた瞬間、思わず歩みを止め、その全容を見上げた。圧倒されてしまったのだ。

 麦の穂をイメージしたと言われる直線的な柱と高い天井。はじける泡を表現した丸いランプシェード。素晴らしいコントラストを描いている。
 そしてなによりも感動的なのは奥の壁一面にほどこされたモザイク画である。麦の収穫を描いたこの壁画は縦2.75m横5.75mの大作だ。

 設計は、駒澤大学旧図書館耕雲館や旧新橋演舞場も手がけた菅原栄蔵。仙台から上京し、現場見習いから建築家に至る人生は、実の息子である菅原定三の著書『美術建築師・菅原栄蔵』で知ることが出来る。
 その後も何度となく「ビヤホールライオン 銀座七丁目店」に足を運んでいるが、入り口をくぐる度にその美しさに感動を覚え、毎回しばらくは全体を見回すこととなる。

 「ビヤホールライオン 銀座七丁目店」を訪れた際に、私が好む席は、「全体を見渡せる入り口付近の席」か「なるべくカウンターに近い席」である。
 入り口近くの席からはホール全体の美しさを愛でることが出来るが、カウンターに近い席からは壁画とともにビール注ぎ職人達の華麗なるテクニックを見ることが出来る。

 「ビヤホールで飲むビールは美味しい」と言う人が多い。しかし、町場の居酒屋とビヤホールのビールは別物ではない。どちらも中身は同じである。さらに言えば、飲食店で飲むビールも私たちが家庭で飲む瓶ビールや缶ビールも基本的には同じ中身なのだ。
 しからば、なぜにしてあのような違いになるのだろうか? それは樽の温度管理やガス圧の調整に加え、“注ぐテクニック”に他ならない。

 一般的な飲食店で樽生ビールを注ぐ際は、はじめに泡がたたないようにビールだけを注ぎ、あとから泡を積みあげることが多い。垂直のレバーを手前に引くとビールが注ぎ口から出てきて、レバーをむこう側に押し倒せば泡だけが出るといったタップが一般的だ。この方法だと経験の少ない従業員でも、ビールと泡の分量をバランスよく注ぐことが出来る。

 それに対して「ビヤホールライオン 銀座七丁目店」では、〝一度注ぎ″で一気にビールを注ぐ。ジョッキの内側にビールを回転させながら流し込むことによって適度に炭酸を飛ばしつつ、泡を作っていき、ビールと泡のバランスを7:3に一発で仕上げるのだ。ピルスナー発祥の地であるチェコで良く見かけるサービング方法である。簡単ではない。

 特に、「ビヤホールライオン 銀座七丁目店」にある、レバーが横に動く「スウィングカラン」を使って注ぐ場合は、熟練の技が必要となってくる。この店にはあまたの〝ビール注ぎ職人達″がいて、華麗な手さばきでビールを注いでいく。私はこれを間近で見たいのだ。
 なんと、常連客の中には注文の際に「カウンター総責任者の井上克己さんで」とか「生ビールの達人、海老原(清)さんで」と注ぎ手を名指しする人もいるとのことだ。こりゃ、指名料を取るべきなんじゃないだろうか? 銀座の指名料、高そうだよぉ(笑)。

 私は、まず1杯目には、サッポロ黒ラベルを気品ある金口グラスでオーダーする。小ぶりのグラスでクイッといきたいのだ。サッポロビールのフラッグシップである黒ラベルは、モルトとホップのバランスが実に素晴らしい。
 2杯目以降はその日の気分で、麦芽100%の豊かさを求めてヱビスを頼んだり、ローストモルトのこうばしさを楽しみたくてヱビスプレミアムブラックを選んだりといった具合である。

 つまみは、ビヤホールの煮込み、LIONチキン唐揚げ、17時と19時半(日・祝には15時と17時と19時)に焼きあがる銀座ローストビーフ。
 そして、素晴らしい建築と壁画と注ぎ手のテクニックも最高の肴となる。

 銀座の「ビヤホールライオン 銀座七丁目店」。
 本当に、いい店だ。また訪れたくなる。