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「誰かに分かって欲しい」は誰もが持っている痛み 趣里さん「生きてるだけで、愛。」に主演

文:永井美帆、写真:有村蓮

人間の大切なことが体に深く刻まれる感覚があった

 「この作品に出てくる人は針が振り切れていて胸が苦しくなる。人間の芯の部分や、大切なことが体に深く刻まれる感覚がありました。他人と関わること、人生の美しさや苦しさ、生きることの全てが小説のタイトルに凝縮されている気がします」。クランクインの半年前、原作を読んだ時の感想を趣里さんは語る。

 「『ぬるい毒』や『クレイジーハニー』など、本谷さんの舞台は何作か拝見したことがあって、『いつか本谷さんが描く世界に入ってみたい』と思っていました。一方で世界観を壊しちゃいけないというプレッシャーもありました」

 趣里さんが演じた寧子は、うつが招く「過眠症」のせいで引きこもり状態だ。アルバイトも、家事もせず、敷きっぱなしの布団の上で寝てばかりいる。同棲(どうせい)して3年になる恋人・津奈木(菅田将暉)は、文学に夢を抱いて出版社に入ったものの、実際はゴシップ記事の執筆に明け暮れる日々。寧子から理不尽に感情をぶつけられても、静かにやり過ごし、向き合おうとはしない。

 本作が長編映画デビュー作となる関根光才監督は、そんな2人の心をザラザラとした質感の16ミリフィルムによる撮影で描いた。さらに監督は寧子のことを「嫌われてなんぼの役」と評する。しかし、最後まで嫌われたままでは共感が得られないと、そのさじ加減には神経を使った。

©2018『生きてるだけで、愛。』製作委員会
©2018『生きてるだけで、愛。』製作委員会

 寧子の心は不安定だ。過剰な自意識に振り回され、現実との折り合いがつけられない。自分自身ですらコントロールできないのに、誰かに分かって欲しいと叫ぶ。その姿に胸が締め付けられるのは、「実は誰もが持っている痛みだから」と趣里さんは話す。

 「寧子だって嫌われたくて生きているわけじゃないし、エキセントリックな言動にはちゃんと理由があるんです。生きていると、自分ではどうしようもないこと、変わりたいのに、変われないことってありますよね。だから、寧子が眠りに逃げてしまう気持ちも理解できるし、自分がしてきた経験を思い出し、心が揺さぶられました」

作品を通じて誰かの心に寄り添えるかもしれない

 趣里さんは4歳でバレエを始め、プロを目指してバレエ漬けの日々を送っていた。中学卒業後には憧れのイギリスにバレエ留学。しかし、度重なるけがにより、バレエを断念せざるを得なかった。

 「それまで積み重ねてきたものが、一瞬でなくなってしまったんです。将来もバレエのことしか考えていなかったから、目の前が真っ暗になりました。そんな中でも生きなくちゃいけないし、前に進まなくちゃいけないという葛藤がありました」

 その時、趣里さんを救ったのは映画や舞台、文学などだった。「岩松了さんの舞台を見た時に、こんな世界もあるんだって引き込まれました。結局、同じ作品を6回も見に行きました。見ている間は現実から離れられるし、そこに苦しんでいる人がいたら、『私だけじゃないんだ』って救われる気持ちになります。そうした経験があったから、この作品を通じて、私も誰かの心に寄り添えるかもしれない。この役は絶対に私が演じたいと思いました」

 バレエの次は、演じることが趣里さんの目標になった。「帰国して、十代後半からアクターズクリニックというところで演技の勉強を始めました。海外戯曲のワンシーンを演じるレッスンがあったんですけど、それがきっかけで自分でも色々な戯曲を読むようになりました。『ダニーと紺碧(こんぺき)の海』とか、『怒りを込めて振り返れ』とか。ニール・サイモンの作品も好きです。海外の話は想像力がかき立てられるし、全く知らない世界に自分が入っていくような感覚になるんです」

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