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事実を学び、考える力を育てる

食育のウソとホント 捏造される「和食の伝統」 著者:魚柄 仁之助 出版社:こぶし書房 ジャンル:健康・家庭医学

価格:2160円
ISBN: 9784875593447
発売⽇:
サイズ: 20cm/234p

旬だからおいしい? 日本型食生活だから健康? 食卓の団らんが日本の伝統? 教育現場にしのびこむ怪しい「和食」賛美を、膨大な文献資料をもとに検証する。痛快な近代日本食文化史…

評者:野矢茂樹 / 朝⽇新聞掲載:2018年11月03日

食育のウソとホント 捏造される「和食の伝統」 [著]魚柄仁之助

 この本を読んで昼寝をしたら、夢に魚柄さん(かなあ?)が現れた。以下、「野」は私、「魚」は魚柄さん(かなあ)である。
野「食育だいじですよね」
魚「それ、食育がどういうものか分からずに言ってない? それがだめなのね。そういうのがかえって食育をダメにするんですの」
野「で、でも現代は食生活が乱れてるから、伝統的な和食に戻ろうとか」
魚「それっ! 伝統的な和食という名前の作り話をでっちあげるんじゃなくて、ちゃんと検証して事実を踏まえないと。調べてみますとね、例えば、昔はトロは食べなかったとか言われるでしょ。でも、これ、大正時代の料理雑誌に『あぶらのお寿司』って記事があるの。トロのことね。『非常に珍重致します』って」
野「ほんとだ。面白いな。でも、この話、食育とあまり関係ないですよね」
魚「なーに言ってんです。事実を確かめずにイメージだけで『食育っ』とか旗振ったらいかんでしょ。そんな言葉を信じて何がなんでもその通りにしようとしたら、もう、たいへんなことになりますぞ」
野「でも、食育を大上段に説くんじゃなくて、ちょっと脱線気味の話が、この本は楽しいんですよ。古漬け沢庵のチャプスイみたいな工夫料理の作り方とか」
魚「それだってだいじな食育でしょ。古くなった、捨てましょう、じゃなくて、何か打つ手を考えましょってわけ。アタマ固くしてたら食育はダメなのね」
野「なーるほど、つまり、誤った事実に基づくイメージに縛りつけて、教条主義的に『こうしなくちゃいけない』と思いこませる、そんな流れに対する抵抗なんですね。この本は」
魚「ま、そうかな。世間の常識を鵜呑みにしないで、正しい事実を学んで、自分のアタマで納得して、状況に応じて柔軟に対処する、そんな力と技術を身につける。分かったなら、ほら、目え覚ましなさいっ」
 で、目が覚めた。
    ◇
 うおつか・じんのすけ 1956年生まれ。食文化研究家。著書に『台所に敗戦はなかった』『食のリテラシー』など。