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つたないろれつで、一生懸命歌った 山内マリコさんが中学時代に出会った音楽「ビートルズ 赤盤・青盤」

ビートルズ「赤盤」「青盤」
ビートルズ「赤盤」「青盤」

 訊かれてもいないのに答えると、わたしがはじめて買ったCDは、吉田栄作「心の旅」だった。チューリップの、あの名曲のカバーである。どういう流れだったかは憶えてないけれど、それから数年後、中学生になったわたしはビートルズにたどり着いた。「バック・ビート」という映画を観て、“5人目のビートルズ”ことスチュアート・サトクリフを演じる俳優のスティーヴン・ドーフに岡惚れしたりしてたので、そのあたりから興味がわいたのかもしれない。親にビートルズのCDが欲しいと言うと、「ビートルズなら」と、こころよく買ってくれると言う。年の離れたいとこがフクロヤ(富山県にあったレコードショップ)で働いているというので、日曜日に車を出してもらった。

 洋楽の棚をあさったのは、それがはじめてだった。「は行」にビートルズはなかった。陳列棚を探しても見当たらず「あれ?」っと思っていると、いとこが「ここだよ」と教えてくれた。棚の上にどーんと特設コーナーがあるのを見て、「なるほど~」と、いろいろ理解した。ビートルズは、中学生のわたしが思っていた以上に、別格の存在なのだ。わたしが生まれる前に解散してるけど、その存在は永遠なのだった。

 2枚組のベスト盤、通称「赤盤」と「青盤」を入手したわたしは、毎日飽きずに聴き込んだ。学校から帰ると自分の部屋にこもってCDラジカセでリピート再生し、ベッドに寝そべって歌詞カードをガン見しながら「ふんふんふん」と口ずさんだ。「オブ・ラ・ディ、オブ・ラ・ダ」や「イエロー・サブマリン」ののどかな曲調につられ、いい気持ちで歌いだす。つたないろれつで一生懸命、英語で歌った。赤盤と青盤は、歌詞カードも赤と青。なかなかどぎつい背景色だ。日本語の訳詞の方はつるつるした白い紙だけど、英語の歌詞は、こってりした赤色、青色のリーフレットに、背景色に負けないよう、くっきり太い黒いフォントで印刷されていた。

 その色のせいで、1曲まるまる歌詞カードに目を凝らしていると、きまって目がおかしくなった。顔を上げると、壁やクローゼットの白い扉が、緑色の下敷きを通したように見えるのだ。その目で鏡をのぞきこむと、自分の顔が「オズの魔法使い」の西の魔女みたいに見える。「ぎゃああああ!」、はじめてこの緑色現象に遭遇したわたしは、軽くパニックになった。

 「赤盤」「青盤」の歌詞カードを見すぎると目が変になることは、長年、自分だけの体験として心に秘めていた。これまで、誰にも打ち明けたことはなかった。同じ現象を味わった人がたまたま検索したとき引っかかるといいなと思い、今回したためることにした。まだ見ぬ同志に、この文章を捧ぐ…。