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人から借りた本は最後まで読まないと気まずい Gottz(KANDYTOWN)

文:宮崎敬太、写真:有村蓮

 東京・世田谷を拠点に活動する大所帯のヒップホップグループ・KANDYTOWN。メジャーレーベルで活躍するKEIJU(ex.Young Juju)、Neetzをはじめ、モデルや映像作家としても活躍しているIO、ヒップホップマニアからも人気が高いDONY JOINT、MUD、ロックシーンから評価されているRyohuなどなど、総勢16人が所属している。今回の登場してもらったGottzもKANDYTOWNの一員。大所帯ゆえに個々のキャラクターが見えにくかったので、今回初のソロアルバム「SOUTHPARK」を発表したこのタイミングで「読書メソッド」への取材オファーをした。

Gottz 「+81」 feat. MUD

 「そもそも本は好きで、小さい頃はハリー・ポッターとかも読んでました。よく本屋さんにも行くしいろいろ買うんですけど、結局読むのは人から薦めてもらった本ばかりですね。というのも、読むスピードが遅いから途中で脱落しちゃうことが多い。あと買ったけど、読んでみたらその時の自分に合わないこともあるし。でも借りたり、教えてもらった本の場合、その相手から感想を聞かれるじゃないですか? その時、答えられないとなんか気まずいので、頑張って読み切るんです(笑)」

物語の中に自分を完全に没入させる

 そんな彼が紹介してくれたのは伊坂幸太郎の『ゴールデンスランバー』。堺雅人主演で映画化もされた大ベストセラーで、さまざまな賞も受賞した。決して短くない物語だが、読者を飽きさせないストーリー展開が本書の特徴だ。

 「この本はIOくんがくれたんですよ。それで読んでみたらすごい面白くて。読む本はほとんど小説ですね。知識系のやつだと集中力が持続しない(笑)。物語なら『次はどうなるのかな?』って読み進められる。主人公に感情移入して、話の中に自分を完全に没入させちゃうタイプ。この『ゴールデンスランバー』はめっちゃスリリングで、すぐに読めちゃいました。あと俺、海外の小説も読めないんですよ。舞台となってる場所の街並みや、文化がわからないから、そこで物語が入ってこなくなっちゃう」

 KANDYTOWNは60〜70年代のソウルやファンク、ロックなどに強く影響を受けたヒップホップグループで、そのレイドバックした感覚が逆に新鮮だった。この本のタイトルは1969年に発表されたビートルズ後期の代表作「アビイ・ロード」の収録曲「ゴールデン・スランバーズ」から引用されたもの。そんな本をメンバーから薦められたというのも、なんとも彼ららしい。

 「俺自身はもともと古い音楽を掘って聴くというより、その時代の新譜をリアルタイムで聴くタイプだったんです。もちろん、ビギーやトゥパックみたいな人たちも聴いててリスペクトもしてるけど、ヒップホップはどんどん更新されていくものだと思ってるから基本的には新譜ばかり聴いてますね。俺が古い音楽を聴くようになったのは、KANDYのみんなと友達になってから。ヒップホップのトラックの元ネタになってるレコードを集めてるやつとかもいて、新譜ばっかり聴いてた俺からすると古い音楽は逆に新鮮だったんです。若かったし、音楽の歴史もよくわからなかったから、自分のフィーリングに合うものを聴いてました」

 そう語るとおり、Gottzのソロアルバム「SOUTHPARK」はアメリカのヒップホップの最新トレンドを取り入れた作品だ。KANDYTOWNのメンバーも参加しているが、作品の中核をなすのはKMやLil’Yukichiといった日本を代表するプロデューサーたちのビート。さらにゆるふわギャングのRyugo Ishidaや、若手注目株のHideyoshi、Yo-Seaらが参加している。アルバムタイトルの「SOUTHPARK」はGottzが最初に結成したグループの名前だ。

 「アルバムの曲が揃ってきて、作品として名前を付けようと考えたけど、うまくハマる言葉がなかったんです。スタイリッシュすぎたりするのは違ったし。そしたらある日“SOUTHPARK”という言葉がふっと思い浮かんで。SOUTHPARKはラップを始めた15歳くらいの頃にホームボーイズ(地元の仲間)たちと作ったグループで、いまKANDYTOWNのメンバーでもあるMIKIやDIAN、KEIJUもいました。俺らの地元・千歳船橋に南公園という公園があって、そこでガキの頃にみんなでよくサッカーしてたんです。それがSOUTHPARKの由来です。今回の作品は、自分にとっては最初のソロアルバムだからストレートな名前を付けたかったので、ちょうどいいかなと思いました。自分にとって大きな一歩になるアルバムだと思います」

主人公が成長していく話が好き

 2冊目に紹介してくれたのは浅田次郎が書いた全4巻のシリーズ小説『プリズンホテル』。ヤクザが経営するホテルを舞台にした、極道小説の作家である主人公、個性豊かな宿泊客、従業員らの群像劇だ。

 「これは元カノが読んでて、面白そうだったから借りたんですよ。いわゆるヤクザものなんですけど、全然ドロドロしてない。とにかく登場人物の個性がすごいんですよ。主人公の作家はめっちゃDVしたり、暴力的なんだけど、実はそれには理由があったり。結構コミカルな感じなんだけど、主人公がいろんな人たちとの関わりの中で少しずつ成長していく。俺はそういう話が好きなんです。個人的には、ちょっとタランティーノの映画『パルプ・フィクション』を思い出しました。ハードなんだけど、テンポがよくて、しかもユーモアもあるところとか」

 ちなみにヒップホップといえば物騒なイメージが付き物だ。KANDYTOWNにもそんなバックグランドがあるのかと聞いてみると、Gottzは笑いながらこう話してくれた。

 「俺らには全然そういうのないですね。そもそもSOUTHPARKは公園でサッカーしてたような連中が組んだグループだし。そういえば16歳くらいの頃、地元の先輩に連れられて六本木のクラブに行ったんですよ。先輩の5人乗りのセダンに7人くらい乗ってたからぎゅーぎゅーで。当時は入り口に黒人のセキュリティがいるなんて知らなかったからめちゃくちゃビビりましたね。『本当に入れるのかな?』って。俺らはそんな感じ」

パッと思い浮かんだのがこの3冊だった

 「天童荒太の『悼む人』は友達のお母さんから借りたんですよ。どの本もそうなんですけど、俺は作家のことは全然知らなくて。読んだのは出たばかりの頃で、すごく話題になってたから俺も普通に知ってました。そしたらこの本が友達の家にあったので、なんとなくパラパラめくってたら、そいつのお母さんが『わたしが読み終わったら貸してあげる』ってあとから貸してくれたんですよ。主人公は新聞や雑誌の事件や事故の記事をスクラップしてる少年で、実際その現場に行って“悼む”んです。ちょっと変わったやつなんだけど、読んでいくとなぜそんなことをしていくのがわかるっていう。高良健吾さんが主演で映画にもなってて、そっちもすごく良かった」

 この本は死生観について書かれた物語だ。Gottzのアルバムには今年急逝したラッパー/プロデューサーのFebbが作った曲「Summertime Freestyle」が収録されている。さらにKANDYTOWNには2015年に亡くなったメンバーのYUSHIもいる。この選書と何か関係があるのか聞いてみた。

 「今回の企画で『悼む人』を選んだことに深い意味はないです。パッと思い浮かんだのがこの3冊だったというだけで。歌詞についてもそうなんですけど、俺はあんまり深く考え込んで書くタイプじゃない。でもだからこそ、自分の中にあるものが自然と出てくる。例えば今回のアルバムでも、別に意識したわけじゃないけど『人生は二度ない』みたいな言葉が多くなった。これにはきっとFebbが亡くなったことも関係している。みんな本当にショックを受けました。『やるしかない』って強く思ったんです。そんな気持ちが自然と歌詞として出てきたんだと思う。

 『Summertime Freestyle』に関してはFebbが『KANDYTOWNとかで好きに使ってよ』みたいな感じで俺に送ってくれた曲の中の1つだったんです。他にもヤバいビートがいっぱいあります。俺が知り合ったのは最近でした。もともとKEIJUがFebbとすごく仲が良くて、俺はKEIJUがソロアルバム(Juzzy 92')を作ってる時によく一緒にいたので、そこで知り合ったんです。あいつは本当に音楽が好きなまっすぐな人間で、とにかく良いやつでした。

 自分のアルバムを出すにあたって、“追悼する”みたいな大げさな感じは嫌だった。だからあいつが好きそうな、聴いたらノッてくれそうな雰囲気に仕上げたんです」

 「SOUTHPARK」にはトラップもあれば、ブーンバップもある。2018年のヒップホップの多様性を反映しつつ、Gottzのルーツやキャラクターもしっかり表現されている。今回選書してくれた3冊はそんな彼の感性を刺激した本たちだ。アルバムを聴いて興味を持った人は、ぜひ今回の3冊からGottzのキャラクターの一片に触れてもらいたい。大いなる一歩を踏み出したGottzもこれらの物語の主人公のように、今後さまざまな人と関わり大きく成長していくはずだ。