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タカラジェンヌの美の「秘訣」を元スターが伝授 宝塚ファンの男性がレッスンを受けると…

文:岡見理沙、写真:斉藤順子

宝塚が教えてくれたこと

――多くの女性がタカラジェンヌにあこがれています。

 私も宝塚は小さいときから大ファンでした。華やかな舞台にあこがれ、宝塚音楽学校に入学しました。校訓「清く正しく美しく」に代表されるように、その教育にはすばらしいものが多く、舞台人として必要なものだけではなく、女性として生きる私の人格形成に大きな影響を与えてくれました。

 舞台のプロになることを目指していますが、芸の前に、人として大切なことを教えてもらいました。たとえば、音楽学校では、下級生は廊下の真ん中を歩かないと決まっています。ただ厳しく見えますが、年長者に道を譲るという意味があるんですね。人へ気遣いすることを学んでいるんです。大人になっても、周囲に気遣うことは大事ですよね。

 内面を磨くことが外見につながりますし、その逆で外見をきちんとすることで内面も磨かれると思います。品格とは内面の美しさと言えると思います。

スタイルだけ良くていいの?

ーースマホを使うことが多くなり、背中が丸まるなど姿勢が悪い人が目につきます。

 街を歩いていると、若くてきれいでスタイルがいい人でも、姿勢がゆがんでいたり、仏頂面だったりしませんか。外見だけではなく、電車で席を譲らなかったり、敷居を踏んだり、思いやりのない人もいます。それらは表裏一体で、内面を磨いていないから表にでてきたのではないでしょうか。スタイルだけが良くても品格があるとは言えません。

 美しい姿勢はタカラジェンヌの代名詞です。立つ姿勢や身のこなしは厳しいくらい徹底されます。たとえば宝塚音楽学校の規則の中に、立つ時は中指をスカートのサイドラインにぴったり合わせるというものがあります。一見厳しすぎるようにも見えますが、それを必死に守っていたら、自然と姿勢は正しく、さらにおなかも引き締まり、体幹が鍛えられ、身体が歪みません。見た目も美しいですよね。

 宝塚での指導は特殊なことと思われるかもしれませんが、実はとても人として大切な事で、そして忘れてしまいがちな事が多いと思います。行動や体をシャンとしたら、気持ちや思考も変わります。そういったことをレッスンを通じて伝えたいと思っています。

ーー「タカラジェンヌの美」はみなさん関心があります。

 私は18歳で宝塚音楽学校に入学し、退団後11年がたちますが、体形が変わっていません。スタジオで毎日踊って歌う以外にも、朝起きたらするストレッチが習慣になっています。テレビを見ながら足を動かすこともありますし、体を動かさないと気持ちわるいんですね。

 本では、宝塚で学んだ基本を分かりやすく読みやすくまとめました。タカラジェンヌのような品格を身につけるためのポイントは、3つあります。健康美と所作、表現力です。健康美は文字どおり、心と体の健康です。所作は立ち居振る舞いや、周囲への気遣いを忘れないこと。

 特に大事なことが表現力。日本人は一般的に不得意と言われますが、人とつながるツールです。表情がないととっつきにくく思われて損をしてしまいます。宝塚の現役だったとき、ちょっとした表情では、二階席の後ろのお客様に表情は伝わらないと教わりました。表情を意識することで、目の周りの筋肉を使い、肌も動きます。声にも表情は出ます。

ーーどんな人がスタジオに通っていますか。

 年齢問わずいらっしゃいますが、もっと健康に、もっと生き生きとしたいという女性が多いように感じます。特に、当スタジオではタカラジェンヌになりきるレッスンが人気です。レッスンを始めるのにいつだって遅くはありません。なりきろうと思ったときから、タカラジェンヌの品格をめざせるのです。

 笑顔が増えた、週1回のレッスンが楽しい、目に見えてきれいになった、という人もいます。男性から「妻がきれいになってうれしい」と言われたこともあります。みなさんが宝塚のメソッドと出会って変わったと聞くと、これが私が宝塚に入った意味だったのかなと充実感を感じます。人が変わるきっかけはすべて自分のなかにあると思います。その背中を押してあげたいですね。

ーーコンプレックスに悩む人も多いです。

 かつて私もコンプレックスがありました。私は身長が167センチと男役としては小さかったのですが、男らしい男役を目指し、コンプレックスと必死に戦いながら、がむしゃらにもがいていました。あるとき、エリザベートのメインキャストの少年時代の役を頂いたことがきっかけで、今までの考え方ががらりと変わりました。私なりの男役像を目指そうと、考えを切り替えました。時には娘役もこなし、両方の役が分かるようになり、前向きに行動できるようになりました。

ーー宝塚は同期の絆が固いと言われますね。

 スタジオで指導している講師にも同期が多く、元雪組の一優斗さんや、元宙組の松本菜穂さん(在団当時は杏里ミチル)がいます。

 同期が出ている舞台はけっこう見に行ってます。先日も、元雪組の彩吹真央さんが出演するミュージカル「マリー・アントワネット」を見に行きました。表題役を演じる元宙組トップ娘役の花總まりさんは先輩ですが、雪組から創設当初の宙組でもご一緒させて頂き、退団までかわいがっていただきました。

ーー宝塚の魅力とは。

 2014年に100周年を迎えましたが、今でも唯一無二の存在ですよね。夢の世界、すてきな世界に3時間入り込めます。キラキラして華やか、男装の麗人が踊る、独特の世界観が魅力なのではないでしょうか。客席はみんな目がハートマークになっていますよ(笑)。

 タカラジェンヌは、女性の生き方のお手本です。そんなタカラジェンヌのように、みなさんが年齢にとらわれず、楽しく生き生きとしたい女性が日々を送れるお手伝いをしたいですね。

51歳の男性ヅカファンが体験

 初嶺さんが運営するスタジオ「Dance&Fitness Studio HatsuNe」は女性専用ですが、今回特別に、宝塚ファン歴8年の後藤浩二さん(51)が体験しました。

 後藤さんは新聞社に勤務するエンジニアで、パソコンの前に座っている時間は1日10時間以上。腰痛や肩こりに悩まされ、「猫背」はかっこわるいと家族から指摘されてきました。初嶺さんの指導でどう変わるのでしょうか。

立っているだけで「きつい」

 レッスンは正しい立ち方から始まりました。初嶺さんが「下から積み木の部品を置いていくように、足の裏から太もも、丹田、お尻、指先と意識して立ってください」と姿勢を正していきます。ただ立っているだけですが、後藤さんは「きついです」と、すでに苦しそうな表情。「肩を落として立つように指摘されましたが、肩を落とすという感覚が分からないです」

 そこで初嶺さんがお手本を見せてくれました。「両肩をぐるっと回してから、肩甲骨を内側に寄せて肩をそのまま落とします」。何度かやっていると…頭から足元まですっと伸びて、心なしか身長が少し高くなった印象に。姿勢が変わるとこんなに変わるのかと、本人も驚いています。

 なんとか正しい姿勢に近づくと次は、お辞儀のレッスンです。後藤さんのいつも通りのお辞儀は、あまり気持ちが入っていないような、だらしない印象です。一方、元タカラジェンヌの初嶺さんは優雅なお辞儀を見せてくれました。「足の付け根を起点に、上半身をまっすぐに倒してください」。鏡に向かって何度も練習していると、優雅なお辞儀姿ができてきました。

ふだんはやる気がなさそうなお辞儀(左)。初嶺さんのレッスンで、キリッと気持ちが入ったお辞儀(右)になりました。
ふだんはやる気がなさそうなお辞儀(左)。初嶺さんのレッスンで、キリッと気持ちが入ったお辞儀(右)になりました。

ポーズを決めて「ドヤ顔」

 次は、花組ポーズ。宝塚ファンにはおなじみの決めポーズです。後藤さんがやってみると「鏡に映った姿は恥ずかしくなるほどかっこ悪いです」。静止したポーズですが「太ももはぷるぷる、体がぐらぐらして自分の体幹の弱さを痛感させられます」と悲鳴を上げています。

 初嶺さんが隣に並び、足の位置を決め、体をひねりつつ、腕を巻き付けるようにポーズを決めると、様になってきました。後藤さんも自信がついたようで「ドヤ顔」です。

 レッスン後、後藤さんに感想を聞きました。「宝塚ファンの私にとっては、ジェンヌさんに直接指導してもらえる至高の時間でした」とうっとりした表情です。「先生は褒め上手でした。かっこいい、笑顔が素敵、と言われれば気分も乗ってきます」。スタジオは女性専用ですが「かっこいいビジネスマンになるための男性教室も是非やって欲しいですね」と、レッスン後も練習していました。