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装いを磨いて心が弾む人生を 内館牧子さん「すぐ死ぬんだから」

内館牧子さん=篠田英美撮影

 5年ほど前、80代中心の集まりにオブザーバーとして出た。「くっきり二つに分かれていたんです。自分に手をかけておしゃれにしている人たちと、身なりにかまわない人たち」。見ていると、おしゃれな人たちは明るく元気で、リーダーシップがあり、気配りもすぐれていた。「外見と中身は連動している」と感じた。
 自分の同窓会で。さえない男たちに混じって、すてきな男性がいた。友人に「あの人は何君だっけ」と聞いた。「ばかねえ、先生よ」と返された。
 こうした体験から、品格ある老い方について考えた。おしゃれな高齢者の物語を書きたいと思った。そうして生まれたのが、主人公の忍(おし)ハナ。78歳。東京・銀座を歩いていてシニア向けの雑誌編集者に「写真を載せさせて頂きたい」と頼まれるほどの女性だ。
 このハナさんの言葉が刺激的というか、過激というか。
 「ババくささは伝染(うつ)る」
 「先のない年代に大切なのは、偽装。これのみ」
 「『ナチュラルが好き』という女どもは、何もしないことを『ナチュラル』と言い、『あるがまま』と言っている」
 「大事なのは他人の評価だ」
 こうした言葉を連ねたのはなぜか。「すぐ死ぬんだから楽が一番というのは分かる。中身が大事というのもその通り。けれども、それだけではないのではないか。逆に、すぐ死ぬんだから好きにやる、自分の装いを磨いて心を弾ませるという考え方があってもいい。ハナを通じて、それを伝えたかった」
 数年前、桜に見とれながら歩いていて段差があるところで転んだ。右足の指が全部折れた。外に出なくなり、化粧もいいかげんに。誰かの手を借りるのが嫌で、何をするのもおっくうになった。「ああ、これが老人になるということだな」と思った。動けるようになって、自分に手をかける気力がよみがえり、ほっとした。
 「終活」はしない。エンディングノートをつけるのも嫌だ。「性に合わないから。相撲だ、プロレスだ、ボクシングだと心弾むことと接して、残りの人生を生きたいんです」(文・西秀治 写真・篠田英美)=朝日新聞2018年11月10日掲載