「贋作 桜の森の満開の下」の初演は1989年、「足跡姫」は昨年、1冊になった二つの戯曲の間にはずいぶん時差がある。坂口安吾の小説を下敷きにした「桜の森」は国造り、十八代目中村勘三郎への思いをこめた「足跡姫」は歌舞伎の起源、ともに始まりの物語とも読める。「だから並べたというわけではなく、人間そんなに変わらないということですね。30年くらいたっているのに」
作・演出・出演の3役を、学生時代に旗揚げした「夢の遊眠社」時代から続ける。書く上で大切なのは、テーマを追う縦の筋だけでなく、「横滑り」させてイメージを広げることだ。
「言葉遊びとかで、横にころがしていく。大学ノートに手で書いているんで、これくらい先のことだなと、隣のページに書いたりします」。「足跡姫」でも、主人公である出雲の阿国のそばに、弟の「サルワカ」という存在を置くことを思いつき、物語がふくらんだ。
「桜の森」は再々々演中で、日本各地だけでなくパリも回った。それでも、まだまだ深められるところが見つかる。例えばミカドの国造りの過程で滅ぼされるオニたち。ミカドのそばにいる道化役でもあり、とすれば藤原氏と見立てる演出も可能だ、と。「自分で書いたことではあるんですけどね、山勘で」
本のもとになっているのは上演された台本。本番直前まで、直しを入れる。実は、忘れがたい「桜の森」の最後の一言は、「そんないいセリフじゃないけどとりあえず書いたもの」。「足跡姫」のラストの独白も「生っぽ過ぎて、ぎりぎりまで悶々(もんもん)と悩んだ」という。公演を経て生き延びた言葉なのだ。ただ、読み慣れない戯曲という形式、奔放に横滑りしていく筋、なかなかついていけない。
「分かりやすい現代詩のつもりで読んでいただくといいかもしれません。つながりが感じられて、先にいけるんじゃないかな。いちいち何でかと考えると途中で止まっちゃう。止まらず読むのが大事だと思います」
舞台同様、身体に流れ込むような膨大なセリフを分からずとも読み進むうち、見えてくるものがある。(文・星賀亨弘 写真・横関一浩)=朝日新聞2018年11月17日掲載
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