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カッパの町・遠野をホップとビールの町へ 移住者たちの挑戦

文・イラスト:藤原ヒロユキ
文・イラスト:藤原ヒロユキ

To The Beer Bar~ちょいのみ親父の探訪記~ 第24回「遠野醸造TAPROOM」(岩手・遠野)

 遠野と言えば『遠野物語』である。
 遠野に伝わる民話や逸話を集めたものだ。遠野生まれの佐々木喜善が語り、柳田國男が書きとめ、1910(明治43)年に出版された。神話はもとより、神隠し、臨死体験などのちょっと怖い話から、明治時代の事件にまで至っている。
 なかでも有名なのは、ザシキワラシやカッパといった、ちょっとカワイイ(?)妖怪のエピソードだ。

 現在も遠野市では“カッパ”を推していて、遠野市公式キャラクターは「カリンちゃん」というカッパのキャラクターである。また、カッパが住んでいるという“カッパ淵”は観光名所にもなっている。常堅寺の裏の木立に覆われた小川で、たしかにちょっと神秘的な感じがする場所だ(笑)。

 さて、「遠野と言えば『遠野物語』である」なんて言ってはみたものの、実は私、ちゃんと読んだことがなかった。文語体で書かれているので、かなり難解だと聞いていて、読み損ねていたのだ。
 なんて思っていたら『水木しげるの遠野物語』という漫画本を発見した。妖怪漫画の巨匠、水木しげる先生のずば抜けた描写力と細密なタッチで描く遠野物語は鬼気迫る迫力だ。おかげで、ちゃんと(?)読むことが出来た。

 さてさて、「遠野と言えば『遠野物語』である」なんて言ってはみたが、ビール好きの私としては、遠野と言えば「ホップ」である。遠野は国産ホップの名産地なのだ。栽培は1963年から始まり、2017年の栽培面積は25.2ヘクタール。国内最大級である。
 とはいえ、この数字は全盛期からすると右肩下がりの状態だ。生産者の高齢化などの問題により、以前は240戸ほどあったホップ生産農家も現在では40戸に減っているとのことである。

 岩手県の資料では、1989年の岩手県全体(遠野以外にも江刺などで栽培している)のホップ栽培面積は320ヘクタールで生産量は647トンだが、2017年になると53ヘクタールで116トンと落ち込んでいる。6分の1に減ってしまった。

 遠野ではこの減少を食い止めるために、若い入植者にホップ畑を受け継いでもらったり、ホップ収穫祭を行ったりして、再びホップの町として盛り上げようとする動きが始まった。
 その流れの中で、2018年5月にビアバー併設の醸造所がオープンする。それが「遠野醸造TAPROOM」である。
 興味深いことに、この「遠野醸造TAPROOM」の創業メンバーは青森県、大阪府、和歌山県からそれぞれ移住してきた人達だ。いわゆる“よそ者”である。

 よそ者に何ができる。
 なんて心配をよそに、「遠野醸造TAPROOM」には大勢の人が集まっている。
 それは、醸造所とビアバーを地元の人達とともに創り上げていったからだ。このよそ者達、ただ者ではなかった。地元にすっと溶け込んだ。

 元酒屋だった物件をみんなで改装していった。特に「これはいいアイデアだなぁ」と感心したのは、椅子を地元の人達に手作りしてもらったということだ。これって、愛着がわくよねぇ~。
 メニューも地元の人達に考えてもらった。遠野の特産品パドロン(5㎝程度の丸みを帯びたシシトウの一種)のフリッター、地元の漬物“どべっこ漬”を混ぜ込んだポテトサラダ、釜石の甲子柿を使ったジェラートなどである。

 そして、極めつけがグラウラー。「お持ち帰りビール用の水筒」である。これならば、車で移動する人が多い遠野でも大丈夫だ。もちろん、帰宅してから飲むのだよ。車中で飲むなんて絶対にいけません。
 今日も地元の人達が、「ペールエールをワンパイント!」「私はフルーティーなヴァイツェンで」「わしはこうばしい味わいのスタウトがいいなぁ」「俺のグラウラーに遠野ホップを使ったエクストラスペシャルビターを詰めてくれ」なんて言っている。みんなすっかりビール通だ。

 遠野を「カッパの町からホップの町へ」。そして「ホップの町からビールの町へ」。
 「遠野醸造TAPROOM」は地元を活性化していく拠点である。 

 遠野の「遠野醸造TAPROOM」。
 本当に、いい店だ。また訪れたくなる。