第28回ドゥマゴ文学賞の贈呈式が12日、東京・渋谷のBunkamuraであった。受賞作は九螺(くら)ささらさんの『神様の住所』(朝日出版社)だ。
九螺さんは9年前、塾の講師をしながら独学で短歌を作り始め、4年前から文章修業のため新聞短歌への投稿も始めた。朝日歌壇の常連入選者でもある九螺さんにとって、短歌は「ふと思った感じを虫捕り網でぱっと捕り、そのチョウが死なないうちに標本にする作業」。短歌とエッセーなどで構成される本作品は、「自分の上澄み液が真空パックにされている、私よりピュアなもの」という。
この賞は毎回1人の選考委員によって決まる。今回の選考委員である作家の大竹昭子さんは選考するにあたり、三つ方針を決めた。既成ジャンルを逸脱する冒険心があること、言葉による表現とは何かを問うていること、初めての著作であること。これらを満たすのが九螺さんの作品だったという。
受賞記念対談で、大竹さんは作品中の1編「ふえるワカメ」を採り上げ、「よく知られる物を扱いながら、『人間は、人間以外の増殖が本能的に怖い』と書く。言葉への光の当て方がちょっと違う。短歌と散文が交じる文章はよくあるが、九螺さんのはある種の論理展開、物語展開をして起承転結があり、なるほどと思わせる」とその魅力の一端を解き明かす。
受賞作から「書くことの切実さを感じた」と語る大竹さん。「言葉を信じるしかない。『言葉にできない』は敗北宣言。なんらかの言葉にできると思っている」と言葉への信頼を語る九螺さんに、「よくわかる。私も言葉にしようとする行為にとりつかれているから」と深く賛同する。
「新聞歌壇投稿を通しての文章修業は卒業」という九螺さん。雑誌連載を始めた今、どうすればおもしろい読み物を書けるか、「勉強」しているという。「わからないことがわかるのは、脳のごちそう。?が!になるのが快感。あ、そうなんだ!を一日一回は経験したい」とすでに次の目標に向かっている。(岡恵里)=朝日新聞2018年11月28日掲載
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