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高松で1日古本屋をやってみた 太田明日香さん「ポリ裏ブックバザール」出店記

文・写真:太田明日香

「一日古本屋さん」の出店にいたるまで

 高松に住む友人のカメラマン、宮脇慎太郎さんから、「ポリ裏ブックバザール」の話を聞いたのは夏のこと。11月23日に高松市内にある商店街の広場を使って古本市を開くため、全国から出店者を募集しているというのだ。
 なんだかおもしろそうだ、と思ったわたしは、是非行ってみたいと思った。これまでも何度か「夜学舎(やがくしゃ)」という屋号で、「一箱古本市」という、どんな箱でもいいから一箱に本を並べて、誰でも古本を売れる古本市に出店したことがあった。せっかくなら実際に出店してみよう。こうして高松で一日限りの古本屋さんをやってみることにした。

宮脇慎太郎さんは高松でカメラマンをしながら、友人たちとブックカフェ「solow(ソロー)」というお店をやっている。今回は高松の街中で本のイベントをしようと、宮脇さんを中心にルヌガンガという新刊書店の中村勇亮さん、古書店「なタ書」の藤井キキさん、古本屋「YOMS(ヨムス)」の齋藤祐平さんといった、近隣の本に関する店舗の有志で企画したそうだ。

 22日午後6時、高松に着いた。大阪からは高速バスで4時間あまりだ。宿に向かう前にせっかくだし前日の様子を見ておこうと、会場周辺に行ってみることに。けど、明日イベントがあるとは思えないくらい閑散としている。ほんとうにこの場所で本当に古本市が開かれるのか?

 と、主催者の宮脇さんに遭遇。

「太田ちゃん! 見てよ、あの垂れ幕!」
 宮脇さんの指差す先には、商店街のアーケードから垂れ下がった巨大な「本」の文字! これはなんだか盛り上がりそうな気がする。

会場となる「四町パティオ」。交番があってその裏に広場があるので、「ポリスの裏」、通称「ポリ裏」。

いよいよ本番

 23日、イベントの当日の朝がやってきた。少し寒いものの、前日のぐずついた空模様が嘘のような晴れ。絶好の古本市日和だ。

 いよいよ会場に搬入が始まった。わたしは会場で机と椅子をレンタルしたけど、中には自作の棚を持って来たり、自分で簡易の屋台を作ったりする店舗もある。各自工夫をこらした飾り付けで、みるみるうちに本屋さんがあちこちにできてゆく。

木箱を器用に本棚として使う人、組み立て式の屋台を持って来て現場で作るなど、いろいろな店がある。いちばん手前がわたしのブース。

 さて、肝心の本については、事前まで何を売るか迷っていた。古本を売るついでなら新刊も売っていいということだったので、自分が書いた『愛と家事』というエッセイ集も持っていくことに。タイトルの「家事」に関連づけて、生活についての本を売ることにして、編み物、料理、家事、そうじ、働き方といった本を中心に選んだ。それに、小説や香川に関連しそうな本もいくつか混ぜて、「生活に役立つ本を売る本屋さん」というコンセプトにする。

 書店員の人が書いた本で、並べ方一つで売れ行きが変わると書いてあったのを思い出し、背を見せたり、平置きにしたり、見栄えよく見えるよう工夫している間に、事前ミーティングの時間に。今日の出店は43店舗。会場に宮脇さんと出店者の「売って売ってうりまくるぞー!」のかけ声が響き渡り、いよいよスタート。DJもやっているという宮脇さんの伝手で、香川のDJ仲間が集まって音楽を流し、会場を盛り上げる。

売ったり買ったり紹介したり

 最初のお客さんは「古書いちげんさん」の名前で出店しているカラサキ・アユミさん。カラサキさんはライターの南陀楼綾繁さんに誘われ参加。ちなみに南陀楼さんは一箱古本市の生みの親でもあり、今回は出店者兼トークイベントのゲストとしても参加している。わたしも古書いちげんさんで、手に入らなくて図書館で読んだ本を見つけて購入。こうやって出店者同士で物を売り買いするのも出店の楽しみの一つだ。

お客さん第一号のカラサキさんは偶然にも同宿だった。

 出店者同士で談笑していたのもつかの間、続々お客さんがやってくる。ちょうど広場が商店街と大通りの間にあり通路のようになっているので、ありがたいことに人通りが絶えない。

 娘さんが今日入籍したという女性、近所のおばあさん、高知からこのイベント目指して遊びに来て松山に寄って一泊して帰るという男性と、次々に売れていく。買い物の仕方にも個性があっておもしろい。一目見てぱっと買う人もいれば、じっくり眺めて最後までめくって悩んでからやっと購入という人も。

開場から大盛況。広場には収まらず、交番の前までブースが出ていた。

 12時近くになり、「ビブリオバトルに出る人は集まってください」とアナウンス。ビブリオバトルというのは、何人かがおすすめの本を紹介し、その紹介を聞いて、いちばん読みたくなるプレゼンをした人が勝ちという遊びだ。今回、わたしはビブリオバトル初体験でもある。持ち時間が5分で、そのあと3分の質問タイムがあるのだが、なかなか長い。

いちばん気に入ったプレゼンに投票する仕組み。どうせなら売り物の本から選ぼうと、以前読んだ『アメリカン・ウォー』という小説を持っていった。結果は、初めてのビブリオバトルはぐだぐだで、一票ももらえずなかなか悲しい気分になった。

ユニークな出店者たち

 しょげながら自分の店に戻ろうとすると、うどんのいいにおいがする。もうお昼だ。お腹が空いていることに気付いた。ブースの人に「おいくらですか?」と声をかけると、「売り物じゃないですけど、お一つどうぞ」とおすそわけしてもらう。鍋を持ち込んで自分たちで炊き出しをしているのだった。大阪から7人で出店しているという「Dull_BQQKs(ダルブックス)」さん。大阪・阿倍野にある「みつばち古書部」という、100個の本棚でそれぞれ違う店主が本を持ち寄って販売している古書店の運営メンバーだそうだ。

以前も「みつばち古書部」のメンバーで高松の「海の見える一箱古本市」という古本イベントに出店しにきたという。共同出店は、いろいろな本を取り揃えられる上、搬入や店番を分担できるからいいアイデアだ。

 今回は、「みつばち古書部メンバー」のようにほかに本業をもちながら、活動をしている人の参加も多かった。店番が忙しく、全部回りきれなかったのが残念だ。ここでは紹介しきれないくらいユニークなお店がたくさんあった。

ブースのみかんに目が目をひく「古書ブン」さんは徳島で宿屋とみかん農家をやりながら、宿屋の一室を使って古本屋をしているそうだ。

東京から来た「無人駅をめぐる本屋」さん。仕事と本がテーマ。今はイベントを中心に出店している。仕事と本という切り口で中高生が来るような本屋を作りたいそうだ。

古本市は再会の場

 午後2時を過ぎ、残りあと2時間ほど。本はまだ半分くらい残っている。がんばって売らないと、と思っていたら、淡路島で以前一緒に仕事をしたカメラマンのHさんが通りがかった。今は香川で役所関係の仕事をしているそうだ。Facebookの告知を見て寄ってくれたそうだ。

 人が人を呼ぶように、知り合いが次々に訪れる。ブースをちらっと見て通り過ぎようとした女性。本に目を止め、話しかけられる。「太田さんって、わたしの知ってる太田さんかしら?」。その声と顔に覚えがあった。以前一緒に仕事したAさん! いつも仕事で高松に来たときに連絡をしても入れ違いだったので、まさかこんなところで会えると思わなかった。再会を喜び、お互い編集した本を交換し合う。

 ブースをのぞく若い女性のお客さん。ジャケットが素敵だったので思わず声をかけると、Twitterで本の感想をつぶやいてくださった方だった。古本市は人との出会いの場でもあるのだ。  
 知り合いと話している間に、次々と本は売れ、残り3分の1ほどとなった。ビブリオバトルで紹介した本も無事買われていった。本を作る仕事に携わっていると、自分が作った本が話題にならなかったり売れなかったりすることもある。けど、こうやって誰かしら読みたい人が現れると思うと、希望がある。

まちの風景が変わる

 午後4時。1日限りの巨大古本街は、終わりを迎えようとしていた。昼間の喧噪が嘘だったかのように、本屋さんはみるみるうちに解体されていった。

 さて、このイベントの成果はなんだったのだろうか。人出は多かったし、今までで最高の売り上げだったといっている本屋さんもいた。もちろん売り上げや人出で見ると成功だろう。でも、それだけじゃない。

 聞くところによると、今回のイベントは企業や行政の協賛や助成金を使わず、全部手弁当で行なったそうだ。ボランティアは運営委員の伝手で集まった若い人たちで、みな出店者を気遣いながら熱心に動いていた。こうやって、自分たちの手で、地元でおもしろいことをしようと、本でつながった人たちが自然発生的に自分たちで楽しみながら、これだけの人を呼んだ。それが何よりの収穫だったのではないだろうか。

 片付け終わったあとの会場を見て、あの一日は幻だったのか、なんて錯覚しそうになったけど、本が売れて行きよりも軽くなったスーツケースが「そうじゃない」と言っている。インターネットで何でも手に入れられる時代だけど、あの熱気も出会いも再会も、行かなかったら手に入れられなかったものだ。

 イベントの終わりに、雑誌『Spectater(スペクテイター)』編集長の青野利光さんとのトークイベントで宮脇さんが言った「傍観者にならずにアクションを起こしていけば、まちの見方が変わる」と言った言葉を思い出しながら、高松を後にした。

出店者たちが集まって記念撮影(國廣優花さん提供)