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江戸の下町で信州オシ! 野沢菜漬をつまみに長野のクラフトビールを

文・イラスト:藤原ヒロユキ
文・イラスト:藤原ヒロユキ

To The Beer Bar~ちょいのみ親父の探訪記~ 第27回「ビール専門 宮澤商店」(東京・門前仲町)

 門前仲町。古くから深川と呼ばれていた地域である。
 摂津国(今の大阪府の北部)から入植した深川八郎右衛門の一族がこの地を開墾したことに由来し、徳川家康が名付けたといわれている。

 富岡八幡宮や深川不動堂などがあり、下町の情緒が今も残る界隈だ。富岡八幡宮の例大祭は江戸三大祭りのひとつで、神輿の担ぎ手に浄め水をかける「水かけ祭り」としても有名である。
 新潮社の『深川江戸散歩』を読むと深川の歴史や住人たちの生活ぶりを垣間見ることが出来る。
 江戸時代から有名な料亭もあり、「辰巳芸者」と呼ばれた“羽織を着ることが許された芸者衆”が、男まさりの“意気”と“おきゃん”を看板にしていたという。
 人情味あふれる町は、宮部みゆきの『本所深川ふしぎ草紙』、牧秀彦の『深川船番心意気』、宇江佐真理の『深川恋物語』など、時代小説の舞台になることも多い。

 東京メトロ東西線の門前仲町駅2番出口を出て、永代通りを東に進む。一つ目の信号を右に曲がると「宮澤商店」はすぐそこだ。店名は店主の宮澤善之さんの祖母が長野県で営んでいた雑貨店の名を受け継いだとのことである。
 外観は “昔からある商店”といった風情だ。入り口の引き戸がガラス張りなので店内が見えるのも良い。
 店頭には「春夏冬中」の木札。春夏冬は、秋が無い=あきない=商いという江戸時代に流行った洒落言葉のひとつである。
 丈の短い暖簾には「ビール専門 宮澤商店」と書かれている。酒はビールしか無いよ! というきっぷの良さが心地よい。

 L字型のカウンターに陣取り、まずはアサヒのスーパードライをクピッとやるのがここの流儀だ。「スーパードライなんてどこでも飲めるじゃん」なんて思っているならばなおのこと、スーパードライから始めて欲しい。繊細なだけに、しっかりとした品質管理と巧みな注ぎ方が要求されるビールである。ここで飲めば、その美味しさを知ることとなる。

 2杯目からは国産のクラフトビール・・・・・・。銘柄は日替わりで、通常8種類である。
 今日は駒ヶ根の南信州ビールが造るデュンケル・ヴァイツェンからいこう。ドイツ語でデュンケルは“濃い、暗い”、ヴァイツェンは“小麦”の意味である。濃色麦芽のこうばしさと小麦麦芽の滑らかさに、酵母が醸し出すバナナやクローブのような香りが華を添える。
 肴は信州豚のペッパー・ヴァイザー 。長野県北安曇のシュタンベルクというソーセージ工房の生サラミである。ほどよい歯ごたえとスパイシーな味わいがヴァイツェンのふくよかさにぴったりだ。

 続いて志賀高原ビールのアフリカ・ペールエール。
 18世紀、イギリスからインドまでアフリカの喜望峰を回る航路でビールを送っていため、防腐効果の高いホップを大量に入れたIPA(インディア・ペール・エール)というビールが造られた。ホップたっぷりの苦いビールである。
 志賀高原ビールのアフリカ・ペールエールは「IPAほどホップは入れていないので苦すぎないよ。だから、インドまで辿り着けずにアフリカのどこかで飲むことになるね(笑)」という洒落の効いたネーミングのビールである。
 合わせるのは、信州名物のひたし鞍掛豆。出汁とかえしで漬け込んだ青豆だ。出汁の旨味がモルトの甘味で引き立てられ、ホップと青豆の香りが一体となる。

 さらに、野沢温泉のマイクロブルワリー里武士のレアなビールを一杯。
 肴は野沢菜漬のわさび風味を選んでみた。ホップのグラッシーな香りと野沢菜やわさびの風味がシンクロする。

 すでにお気づきかと思うが、「宮澤商店」は「信州推し」である。
 それは、店主が長野県出身だからだ。店内に並ぶ本も長野を紹介するものが多い。もちろん他の都道府県のクラフトビールも用意されているが、長野県のビールは欠かさない。
 江戸情緒が残る深川・門前仲町で信州贔屓のビアバー「宮澤商店」があるなんて意気ではないか。
 この深川も元はと言えば関西人の深川八郎右衛門によって開拓された場所なんだから、いろんな「お国」贔屓があっていいと思う(笑)。
 じゃ、上方贅六の私は4杯目を大阪の箕面ビール・スタウトと洒落こむかぁ。

 門前仲町の「宮澤商店」。
 本当に、いい店だ。また訪れたくなる。