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#02 心身に染みわたる滋味深き朝のスープ 友井羊さん「スープ屋しずくの謎解き朝ごはん」

文:根津香菜子、絵:伊藤桃子
鮮やかな緑色のポタージュが白磁の深皿に映え、小さく千切られたクレソンが表面に散らされている。金属製のスプーンを差し入れると、鮮烈なクレソンの香りが立ち上った。理恵は早速とろみのついたスープを口に含む。舌に残るざらつきがなく、すっと舌を滑り、喉を通っていった。「美味しい……」思わず声が漏れていた。まずジャガ芋のコクのある甘みを感じ、次に、ぴりっとした辛さが特徴の葉野菜であるクレソンをサラダで食べたような新鮮な辛味と苦味を味わえた。ベースはチキンブイヨンだろうか。野菜の味わいをしっかり支えていた。 (「スープ屋しずくの謎解き朝ごはん」より)

 寒くてお布団から出たくない朝、日々のゴタゴタに疲れて今日1日を頑張る気力がわかない時、温かいスープはいかがでしょうか? その店には、優しい笑顔の店主が作る美味しいスープが待っていますよ。

 早朝にひっそり営業している「スープ屋しずく」は、店主でシェフの麻野が日替わりでスープを提供しています。偶然店を知ったOLの理恵は、「ジャガ芋とクレソンのポタージュ」の美味しさの虜になって以来、頻繁に通うようになります。店にやってくるお客さんの抱える悩みを麻野が見抜き、真相を解き明かしていくというストーリーですが、毎回どんなスープが出てくるのかな?というのも楽しみの一つ♪ 著者の友井羊さんにスープのお話を伺いました。

食材を煮出せばできるスープはおもしろい

――なぜ「毎朝日替わりのスープを出すお店」を作品の舞台に選ばれたのでしょうか?

 担当編集の方から「朝ごはんをテーマにした作品を」という提案があり、「スープなら朝でも食べやすいんじゃないかな」と思ったのがきっかけです。スープという調理法自体がとても面白いと思うんですよね。全ての食材を煮出せばスープになるし、バリエーションがいくらでもあって、いろんな国のスープがある。そんな料理なら、毎回メニューを変えても面白いものが書けるのではないかと考えました。

――スープの描写が細かくて、実際に食べているわけではないのにスープが心身に染みわたるような感覚になるのですが、「味わい」を文章で表現するにあたって、何かこだわりはありますか?

 味覚の表現って「しょっぱい」とか「甘い」など数種類しかないんです。人がなぜ「美味しい」と感じるかというと、味覚以外の五感、見た目や食感、温度などを総合して「美味しい」って思っているんですね。なので、「たっぷりキノコのクリームシチュー」は、木製のボウルに盛り付けて、水牛の角で出来たスプーンで食べる、といったように、作中ではスープを盛る器や、唇と舌に触る匙も毎回メニューによって変えているんです。味以外の五感で読者の方に魅力的に感じられるように気をつけて書いています。

――作品に出てくるスープは、ご自身でも作っていらっしゃるんですか? 

 作れるものはなるべく自分で作っています。作品に出てきたスープだと、スペイン料理の「ソパ・デ・アホ」はものすごく簡単に作れるんですよ。家にコンソメとニンニク、オリーブオイルやパプリカパウダーがあったので、作ろうと思ったらすぐに出来ました。

 僕の楽しみの一つが、世界各国の料理を出すお店に行くことなんですが、メニューにスープがあれば注文してみます。最近面白かったのが、エジプト料理の「リサンアスフール」っていう、小さな粒状のパスタが入ったスープなんです。思っていたよりもあっさりと上品な味で「これもまた違う文化の味なんだな」って思いました。自分の世界が広がって、新しい発見ができるのが楽しいです。

――友井さんが一番思い出に残っているスープは何ですか?

 定番ですけど、子どものころから親しみのあるコーンポタージュが好きです。冬の寒い日に家に帰ると、母が作ってくれたコーンポタージュが嬉しくて。パックに入ったものを使った手軽に作れるスープだと思うんですが、自分の中では大切な思い出ですね。

――友井さんにとって「スープ」とはどんな食べ物ですか?

 どんなに疲れている時や心身ともにまいっていても、体が受け付けてくれて、力になってくれる。そんな調理法であり、食べ物です。