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「生きること」真っ直ぐに問いかける 中学生作家・鈴木るりかさん「14歳、明日の時間割」

文:加賀直樹 写真:斉藤順子

志賀直哉の文章のリズムが好き

――昨年のデビュー作「さよなら、田中さん」が大反響を呼びましたね。俳優の谷原章介さんも「好書好日」連載の初回で絶賛していました。私も読んでみて、心を大きく揺さぶられた一人です。貧困のなかでも逞しく生きる小学生と、その母親。与えられた身の丈のなかで精いっぱい、光の射すほうに毅然と向かおうとし続ける。その姿が、純粋にカッコ良かったです。

 ありがとうございます!

――いま、15歳なのですね。大人と子どもの中間というか、何というか。じつはいま、どんな切り口でお話を聞こうか、ちょっと緊張しています。私立中学3年生に在籍。と、すると、高校受験……。

 中高一貫なので、受験はないんです。部活がいまも毎週あって、週2回、水曜と金曜、料理と裁縫などをやっていて、お菓子とかつくっています。もともとお料理をつくるのが好きで、小学生の時からずっと、家庭科クラブに入っていました。

――家庭科クラブの部活動を描いた物語は、今作のなかに含まれていますね。プロフィールを手掛かりにお話を進めましょう。趣味がギターとゲーム。ギターはどんな経緯で始めたのでしょうか。

 母の実家にクラシックギターが置かれていて、母が演奏していたんです。私が手に取るようになったのは小学校高学年の時からです。まだまだ練習中ですけど……。ゲームは、課金なしでも遊べるアプリがけっこうあるんです。それから任天堂の「どうぶつの森」シリーズとかも、ずっと。

――好きな作家として掲げているのが、志賀直哉と吉村昭。その魅力はどんなところに?

 志賀さんは文章のリズムが好きです。小学校高学年の時、図書館の司書さんに薦められ、短編小説「小僧の神様」を手に取りました。それから同じく短編の「剃刀」も。吉村さんは、文章の美しいところが好きです。

――小さい頃から、本を読むのが好きだったのですか。

 ずっと小さい頃は「世界の名作」。たとえば「赤毛のアン」などの本を読んでいました。

――得意な教科が国語で、苦手な教科が数学なのですね。

 高校受験がないので、勉強するうえで緊張感を保つのが大変です。あんまり勉強はしていないんですけど、動画投稿サイト「YouTube」に勉強法を解説する動画があって、すごくわかりやすいので、よく見ています。ちょっとした空き時間でも見られるんです。

さまぁ~ず・三村が「中2に泣かされた!」

――プロフィールを読み、笑ってしまったのが、好きな人がお笑い芸人「さまぁ~ず」の三村マサカズさん。それからお笑いコンビ「テンダラー」。シブいですね。

 三村さんは「明るいお父さん」みたいな感じが好きです。デビュー作の刊行後、ラジオ番組に呼んでくださり、ゲストで出演させていただきました。すごく、優しかったです!

――三村さん、どんな言葉をかけてくれたのですか。

 本を読んでくださったそうで、「中2に泣かされた! 息子にも泣かされたことないのに」って。嬉しかったです。

――そして「テンダラー」。関西中心に活動中の中堅芸人さん。通好みの人選ですね。

 最近好きになったんですけど、すごく手がきれいなんです。

――手! そこに着目したことなかったなあ。それにしても、前作の反響が大きかったからこそ、今回の新作執筆に繋がったのでしょうね。約1年、どんな声が届きましたか。

 「次が楽しみな作家さんです」とか、「好きな作家さんが1人増えました」って感想をいただいたんです。だから、「作家になった」というより、「読者のかたがたに作家にしてもらった」という気持ちが大きくなっています。

――「作家にしてもらった」。なるほどー。そういう考えになるんですね!

 82歳の女性からは「いつお迎えが来ても良いと思っていましたが、この本の続きを読みたいので元気に長生きを願うこの頃です」。45歳の女性からは「大地震の夜、不安で表情が固まっていた娘が、この本を読み始めたら笑顔になり笑い声を立てました。ありがとう」。65歳の女性からは「目の見えない70歳の夫に音読して、2人でお笑いし、2人で泣きました」というおはがきもいただきました。

――どれも胸が熱くなる感想ばかりですね。「私はこの先、作家の道を歩くのだ」と、読者から背中を押してもらったのですね。

 はい! 2作目を書くにあたって、初めは前作の主人公・花実ちゃんが登場する続きを書こうか、みたいな気持ちもあったんですけど。

――中学生になった花実ちゃん。

 はい。でも「これだけ?」って思われたくないので、違う話にすることに決めました。

――続編ではなく、新しい観点にしたのですね。新作には短編が7つ、時間割に見立てられています。「一時間目、国語」「二時間目、家庭科」……。着想は、いつ、どんなふうに思い付いたのですか。

 初めに「体育」を書き上げました。その時、編集者さんと話し合って、「じゃあ、時間割っぽくしてみようか」って。教科別にして書くようにしていったんです。

「大人の哀愁漂うものを」と編集者に言われて

――「五・六時間目 体育」は、体育の苦手な少女が向き合った、ある大きな挑戦と努力について描かれます。彼女の周りの人々の生きざま、「生きる」ことへの希望。主人公・星野さんと、彼女の祖父、陸上部のスター・中原君、そして中原君のお兄さん。彼には過去の栄光と影があります。そして、挫折を乗り越え、再び立ち上がろうとする。

 今年の初め、スポーツ庁が「新学習指導要領」の基本計画に、「スポーツ嫌いの中学生を半減させる」ことを目標に掲げるという報道を見ました。それを聞いて、「スポーツがあまり得意じゃない人が聞いたら、どう感じるんだろうな」って。それが、この作品を書くきっかけになりました。

――ああ、ありましたね。私も体育が嫌いな子だったので、「半減させるって……。運動ができる子が偉いの?」って、ちょっとカチンと来たのを思い出しました。鈴木さんも「ん?」と思ったクチですか。

 そうですね、私もあんまり得意なほうではないんです。

――物語は、あの有名な歌のモジリで始まります。「世の中にたえて体育のなかりせば われの心はのどけからまし」。マラソン大会に挑まなければならない憂鬱。いっぽう、「その日」を迎えようとする祖父。この短編が面白いのは、テーマとなる「走ること」のつらさ、苦しみを、読者も疑似体験しながら読み進められる。やがて苦しさを過ぎて「ハイ」になる。物語にも鮮やかな展開が待ち受けています。「生きる」こととは何か、まっすぐな視線で問いかけますね。

 この物語で登場するおじいさんの経歴や、人となりは、私の父方の祖父からいただいたんです。いっぽう、喋る言葉は母方の祖父から。だから、ミックスさせた存在なんです。

――鈴木さんでなければ描けないおじいさんなのですね。その、母方のおじいさんの「言葉」とは。

 「春の季節が一番好き」などです。言葉に思いを込めています。いまは両方とも亡くなってしまいました。

 死と眠りの境はどこにあるんだろうか。
 その時夢は見ていたんだろうか。
(中略)
 どんなことをしても、死はやってくるときにはやってくる。容赦なく。
 私なんかがひっくり返せるようなものじゃないんだ。
 どんなにあがいても、チリチリ胃を焼くようなもどかしさに、身を焦がしたとしても。それでも祈ってしまう、すがってしまう。そうすることしかできない。 (「五・六時間目 体育」より)

――「一時間目 国語」では、短編小説が入賞し作家となった少女に対し、国語の先生が、無茶なお願いを吹っかけてきます。これは、もしかして私小説だったりするのですか。

 3割ぐらいは本当のことが入っています。特に家族。父親や母親の話は全部実話です。

――愛すべきキャラクター。お父さんは「娘の書いた小説を読んでいない」という設定ですが……。

じっさい、私の父も読んでいないです(笑)。

――ええ? それはもったいない(笑)。この章に登場する国語科の矢崎先生、文学少年崩れで、自身も物語を書き溜めていて。変なペンネームまで付けちゃって。出版社に作品を送っても、鳴かず飛ばず。自意識を過剰にこじらせたキャラクター。

 この矢崎先生は、完全に想像でつくりました。

――こんな先生がいたらちょっとウザいかも(笑)。そんななか、輝く存在なのは、この「国語」も含め全編で登場する陸上部の中原君。短編を束ねる縦軸として活躍します。「国語」で彼は、将来の道を逡巡する主人公に「跳ぶ前に見ていたら跳べなかったかもしれないし。跳んだときが跳ぶタイミングだったんだよ、きっと」と言葉をかける。背中を軽く、爽やかに押してくれるんですね。

 私の頭の中で、しぜんと中原君が言っていました。

――中原君、カッコいいんだよなあ。「二時間目 家庭科」では、ある事情を抱えた男の子に対し、ここでもグッとくる台詞を言うんですね。詳細は本を開いてのお楽しみとして、中学生読者は勿論、中学生「だった」私たち大人が読んでも切なくなります。手編みマフラー、手作りクッキー。モチーフの一つひとつ、キュンキュンします。キュンキュンって死語でしょうか(笑)。

 中原君は、完全に想像でつくり上げたんです。「こんな人、いないよねー」って(笑)。中原君のほかにも、私自身は一人っ子なのですが、兄弟や姉妹の関係を描く際にも想像で、私の頭の中で、その兄弟が動き出していく様子を書いていっています。書き始めたら、頭の中に浮かぶ言葉をただ記していくような感じなんです。

――各々の登場人物がそうやって動き始めると、物語は早く書き上がるものなんですか?

 それが、話ごとにだいぶ違うんです。「国語」は、この作品の前にだいたい書き終えていたものがあったのですが、ある日、通学途中に突然、「降って」きて、メールを編集者さんに送ったんです。「学校に行く途中に降ってきました! 0から書き直すのでもうちょっと待ってください」。そこから1週間で書き直しました。いっぽう、最終章の「放課後」は、1カ月ぐらいかかりました。

――「放課後」は、「国語」の章で登場する、あのこじらせ国語教師が主人公ですね。やはり年齢的に、鈴木さんとは最も遠い存在だから書きづらかったのでしょうか。

 「大人の哀愁漂うものを」と編集者さんに言われて。その哀愁を描くのが難しかったです。

――どんなアドバイスを受けたのですか?

 「現役中学生作家と呼べるのが今回までなので、その強みを活かして」と思っていたのですが、編集者さんには「大人が主人公の話もほしい」と言われたんです。「どうしよう」と思っていたところ、「国語」が書き上がった。「国語の矢崎先生って、すごくキャラが立っている!」って褒めてくださったんです。「大人がいつまで夢を持っているのか、いつ諦めるのか。どう抱えていけばよいのか」

――結果として、めちゃくちゃ哀愁が漂っていますね。大人ならではのリアルな苦悩。それでも小説を書くのが好きだったことに気づいた矢崎先生は、再び鉛筆を握る。その芯の鈍い輝き、消しゴムのカス……。

 この放課後には「アフタースクール」という副題を付けているんです。「大人」のことです。学校を卒業した「放課後」=「大人」じゃないですか。

――ああ、だから本文の最後に出てくる「放課後」の3文字に「アフタースクール」という読み仮名が振られているのですね。授業の放課後と、卒業後の大人というダブルミーニング。そしてイケメン中原君、ここでも活躍しますよね。颯爽と登場し、そして去っていく。

「じゃあまた今度書いたら、読ませてください」 
「え、先生の、を?」
「はい。楽しみに待ってます」

 私自身、「また読みたいです」という感想をいただいたことが嬉しかったんです。私も「また次が楽しみ」って思ってもらえるような作家になりたいって思うことができました。

――今後、1年に1冊のペースで書いていかれるのですか。

 そうですね。今回、けっこうギリギリだったんですけど(笑)。来年の構想も何となく考えています。内容は「お楽しみに!」と思っています。

――それこそ、中原君の言葉をお借りしたいです。「読ませてください。楽しみに待ってます」

 ありがとうございますっ!