「最後の浮世絵師」と呼ばれた月岡芳年(つきおかよしとし)(1839~92)に関する研究を集成し、その全貌(ぜんぼう)に迫った「月岡芳年伝 幕末明治のはざまに」(中央公論美術出版)を出した。凄惨(せいさん)な場面を描く「血みどろ絵」で根強いファンがいる芳年だが、西南戦争錦絵や歴史画、美人画へも光を当てることで「『血と狂気』のレッテルから解き放ちたかった」と話す。総文献目録や作品一覧も付した決定版だ。
芳年との出会いは大学時代。マンガ家の花輪和一と丸尾末広の作品を通して、芳年の「血みどろ絵」を見たのがきっかけだった。江戸時代の浮世絵師、歌川国芳(うたがわくによし)で卒論を書いた後、指導教授の勧めもあり、門下の芳年で修士論文を書くことに。だが、美術史上の評価は低く、「彼の誤解を解いてあげたい、と思ったのが最初でした」と笑う。
明治期の浮世絵は欧州でジャポニズムの波に乗った葛飾北斎らと比べても新しすぎ、芳年も長く「無視されていた」。三島由紀夫らの手によって特異なかたちで脚光を浴びる。「いまもファンがいるのは、彼の作品がどこか古くさくないからだろうと思います」(山崎聡)=朝日新聞2018年12月5日掲載
編集部一押し!
- 著者に会いたい 奈良敏行さん「町の本屋という物語 定有堂書店の43年」インタビュー 「聖地」の息吹はいまも 朝日新聞読書面
-
- インタビュー 鈴木純さんの写真絵本「シロツメクサはともだち」 あなたにはどう見える?身近な植物、五感を使って目を向けてみて 加治佐志津
-
- インタビュー 「尾上右近 華麗なる花道」インタビュー カレーと歌舞伎、懐が深いところが似ている 中村さやか
- 中江有里の「開け!本の扉。ときどき野球も」 生きるために、変化を恐れない。迷いが消えた福岡伸一「生物と無生物のあいだ」 中江有里の「開け!野球の扉」 #13 中江有里
- コラム 三浦しをんさんエッセー集「しんがりで寝ています」 可笑しくも愛しい「日常」伝える 好書好日編集部
- 小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。 【特別版】芥川賞・九段理江さん「芥川賞を獲るコツ、わかりました」 小説家になりたい人が、芥川賞作家になった人に聞いてみた。 清繭子
- インタビュー 新井紀子さん×山本康一さん対談(後編) 辞書は民主主義のよりどころ PR by 三省堂
- インタビュー 新井紀子さん×山本康一さん対談(前編) 「AI時代」の辞書の役割とは PR by 三省堂
- インタビュー 村山由佳さん「二人キリ」インタビュー 性愛の極北に至ったはみ出し者の純粋さに向き合う PR by 集英社
- 朝日ブックアカデミー 専門外の本を読もう 鈴木哲也・京大学術出版会編集長が語る「学術書の読み方」 PR by 京都大学学術出版会
- 朝日ブックアカデミー 獣医師の仕事に胸が熱く 藤岡陽子さんが語る執筆の舞台裏 「リラの花咲くけものみち」刊行記念トークイベント PR by 光文社
- 朝日ブックアカデミー 内なる読者を大切に 月村了衛さんが語る「作家とはなにか」 「半暮刻」刊行記念トークイベント PR by 双葉社