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BLラバーの書店員が選ぶ「年末年始にイッキ読みしたいシリーズもの」3選

梨園を舞台に若き御曹司たちが繰り広げる“芸と恋”(井上將利)

 今年も残すところ、あと僅か。大晦日にお正月、日本の文化がいつもより身近に感じられる今日この頃。こんな季節には歌舞伎をテーマにした作品などいかがでしょうか。

 『花恋つらね』(新書館、既刊3巻)は人気作を数多く手がける夏目イサクさんが初めて描く、“歌舞伎”を題材にした作品。女形の松川惣五郎と立役の新井源介、それぞれ歌舞伎界の名門に生まれた若き御曹司たちの“芸と恋”が華やかに、そして艶やかな表現で描かれています。

 周りの評価に敏感でガラスのハートな惣五郎は同年代の源介にライバル意識を燃やしていたけれど、偶然訪れた舞台での共演をきっかけに源介から「お前のファンだ」と予想外の告白をされて!? 負けたくないライバルがいつの間にか気になる人に。好かれたり、好きになったり、行ったり来たりの二人から目が離せません!

©夏目イサク/新書館
©夏目イサク/新書館

 そして物語を鮮やかに彩る女形、惣五郎の色気も本作の見どころ。作中だけでなく表紙や扉絵のイラストにも溢れんばかりの色っぽさが描かれていて、その仕草や表情に思わずうっとり(個人的に第3幕のイラストは外せませんッ!)。きっと源介と一緒にドキッとしてしまうのではないでしょうか?

 女形と立役。演目上の立場でありながら、芸に没頭する彼らにとっては自分そのもの。そんな歌舞伎役者としての側面と照らし合わせながら、二人が新たな感情の芽生えに気づき、戸惑い、すれ違い、そして向き合っていく様子に胸がジーンとしちゃいます。

 二人はこの後いったいどうなるのか? 続きが待ち遠しくて堪らなくなるはず!! 「Dear+(ディアプラス)」で絶賛連載中の本作、まずは発売中の第3巻までをご堪能ください!

イケメン×ブサイクの日常系BL(キヅイタラ・フダンシー)

 あっという間に年末がやってきました。せわしない季節ですが、年明けって意外と暇を持て余したりしますよね(笑)。そんなときにオススメしたい、シリーズもののBLとして、田中鈴木さん『アイツの大本命』(リブレ、既刊10巻)をご紹介します!

 第1巻が発売されたのは2009年。もうすぐ10年を迎えるご長寿タイトルです。クラスで、いや学校中で一番モテ男の佐藤の本命は、“ブサイクツリ目ザル”と女子たちに罵られている吉田で……!?、というお話。イケメン攻め×ブサイク受けの決定版です!

 攻めの佐藤は見た目はもちろんですが、仕草もいちいちカッコよくて、壁ドン・バックハグ・顎クイの“3大キュンとくる仕草”をサラッと決めちゃう男前っぷり。でも完璧ではないところがまたイイ!のです。実は幼少期にトラウマがあったり(第4巻で明らかになります)、ちょっと歪んでいたり、嫉妬深かったり、意外と照れ屋だったり……と、人間味ある感じが魅力的!

 そんな佐藤の本命、吉田もピュアで怖がりで素直じゃなくて、なんだか愛嬌のある小動物みたいなかわいさです。ドSな佐藤に何かされるたびにアワアワしたり、あれよあれよと流されて付き合っちゃったり、吉田の表情を見ているだけでも楽しめます(笑)。

©Suzuki Tanaka/libre
©Suzuki Tanaka/libre

 ほかにもブサイク仲間の秋元&牧村、佐藤の元同級生・艶子、吉田大好きな西田など、二人の周りを彩るキャラクターたちも個性がすごい。それぞれを主人公にマンガが描けるのでは?っていうレベルです(笑)。さらに学校の女子一同は佐藤が笑顔を向ければ失神し、他校の女子たちから佐藤を守るために親衛隊を結成し……など、いちいち笑わせてくれます。こんなに全キャラクターを愛せる作品ってなかなか無いかも……。

 読み進めていくと、なぜ佐藤が吉田を好きになったのか、などの過去も明らかになっていきます。二人のお付き合いはじっくり進んでいくので、波の激しいストーリーではありませんが、周囲の人たちを巻き込んだドタバタな日常はずーっと読んでいたいくらいにぎやかで飽きません。たまに読み返してみるたびにキュンとしながら、この先どうなっていくのかワクワクしています(はやく続きが読みたいー!)。

 複雑な人間関係やぶっ飛んだ設定もないので、サラッと読める作品として万人に推薦したい作品です!お正月休みにぜひお手に取ってみてはいかがでしょうか♪

華族の世界を描いた重厚なクラシカルロマン(貴腐人)

 「年末年始にイッキ読みしたいシリーズもの」としてお薦めしたいのが、日高ショーコさんの『憂鬱な朝』(徳間書店、全8巻)
 時代の波に飲まれ没落するか、生き残り栄華を極めるかの瀬戸際を生きる華族と、時流と財力を武器に華族に取って代わろうとする平民上がりの豪商が生きる世界を華やかに描いたグランドクラシカルロマンです。

 10歳にして子爵家を継いだ久世暁人(あきひと)と家令の桂木智之。ある理由から暁人は久世家を桂木に継がせたいと思い、一方で桂木は久世家を伯爵に格上げしたいと、二人の思いは交錯します。そんな二人の思いと周りの思惑が絡み合いながら、桂木の出自が鍵となり物語の面白さを加速させ、気が付けば明治の時代に引き込まれ、登場人物の一人として物語の中にいるかのよう。大河ドラマか宝塚歌劇を観ているような気分にさせてくれる作品です(私の頭の中では、桂木と暁人が大階段から銀橋にかけてデュエットダンスを踊っています)。

「憂鬱な朝」Ⓒ日高ショーコ/徳間書店 2018
「憂鬱な朝」Ⓒ日高ショーコ/徳間書店 2018

 あの時代、名家の当主が結婚もせず子供も残すこともせず、家令と対等な男同士として並んで歩んでいくことは、とても難しかったはず。二人がぶつかり合い、悩み苦しみながら最後に出した答えが素晴らしい。
 安易な終わり方ではなく、二人が考え抜いて出した答えだと納得でき、ラストシーンの二人の後ろ姿に号泣してしまいました。
 さすがはストーリーテラーといわれる日高ショーコさんです。

 『憂鬱な朝』は完結しておりますが、同じ時代を描いた一般コミック(非BL)『日に流れて橋に行く』(集英社、既刊2巻)を連載していらっしゃいます。日高ショーコさんが気になる方は『日に流れて橋に行く』も読んでみるのはいかがでしょうか。こちらもお薦めです。