舌を嚙(か)みそうなタイトルは「異種言語学」をラテン語風にした造語らしい。よくある異世界モノでは人間と異種族が普通に会話しているが、そのお約束をひっくり返した。
ケガした教授に代わり新米言語学者が魔界をフィールドワークする。事前にワーウルフ(狼男〈おおかみおとこ〉的な種族)の言葉を学んでいたもののネイティブな発音にはついていけない。そもそも彼らは音声より匂いを重視する。〈分かる水〉と呼ばれる液状生物は振動で会話し、クラーケン(タコ型種族)は体色の変化と動作を相手によって使い分ける。
そんな肉体構造も五感の受容域も違う者たちとの意思疎通に四苦八苦しながらも彼らの言語と文化を知ろうとする研究者の調査日誌のようなスタイル。1ページ単位の記録を連ねつつ全体で大きなストーリーを紡いでいく。言葉として聞き取れない部分を■や音そのもので表記するなど、細部の工夫が説得力を生む。
身近な単語から法則を探る様子は異星人とのコミュニケーションを描いた映画「メッセージ」を彷彿(ほうふつ)させる。ほどよくコミカルで知的刺激に満ちた異文化交流譚(たん)。“郷に入っては郷に従え”式の主人公の謙虚で愚直な姿勢には見習うべき点が多数ある。=朝日新聞2018年12月15日掲載
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