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ビンテージカーを通して「昭和にワープ」 横山剣のグッドセンスが光るエッセー「僕の好きな車」

文:宮崎敬太、写真:斉藤順子

現代の立ち位置から当時を見る「昭和にワープ」な感覚

ーー車を切り口にさまざまな人、音楽、文化、風俗を紹介するというこの切り口はどのように生まれたんですか?

 例えばこの表紙。HINO CONTESSA 900 SPRINTという1962年に発表された車なんですが、これは幻のコンセプトカーで、しかも実際には発売されてないので、この表紙のイラストのように現代の羽田空港の前の道を走ってるなんてあり得ないんですよ。僕が大事にしているのは、現代の立ち位置から昭和を見るという感覚。クレイジーケンバンドにも「葉山ツイスト」という曲があって、その中に「昭和にワープだ」という歌詞があるんですよ。時間が経った今だからこそわかる良さがあると思うし、逆にいまそこらへんを走ってる車もいつかはヴィンテージカーになる。クラシックカーだって別に全部が良いわけじゃない。そういう感覚が自分の中にはあるので、自然とそういう切り口になっちゃったんです。

ーー本書では71台の車が紹介されていますが、表紙をHINO CONTESSA 900 SPRINTにしたのはなぜですか?

 だってカッコいいでしょ? この車は日野自動車がイタリア人のカーデザイナー、ジョヴァンニ・ミケロッティと、伝説的エンジニア、エンリコ・ナルディとともに作ったんです。しかも実際に発売されなかったのには、いろんな噂もあるんですよ。その辺の詳細は本を読んでいただくとして(笑)。大事なのは今の時代に通用するか、ということなんです。この本ではいわゆる名車というよりは、もっと個人的に好きな車を紹介しています。この車だって、日本のメーカーが作ったのにイタ車よりイタリアっぽいデザインにグッときたんですよ。

ーー確かにこの本ではスペックみたいな部分はそこまで言及されていませんよね。どちらかというと、車にまつわる思い出と、剣さんの妄想とが交差していました。

 車は大好きなんだけど、メカの詳しいことはよくわかんないんですよ。僕は車そのものと、乗ってる人を見るのが好き。例えば、昔は乗る時に着るカーコートというコートがあったりとか。あと俳優の夏木陽介という人は、石原裕次郎さんと同じドアがウィング型になってるベンツに乗っていて、内装としてFUKUZOの生地を張っていたりしたんですよ。そういうのを見るのが大好きでしたね。

ーーそれはFUKUZOで生地だけ買ってきて、内装として車に張っていたということですか?

 そうそう。ドアを開ける時にチラリとFUKUZOの生地が見えるのがカッコよかった。昔のおしゃれな人たちはそういう部分にこだわってたんですよ。これは着物の裏地にこだわる江戸の文化にも近いですよね。つまりこれはサンプリングですよ。まったく違う文化圏のものを自分なりの感性で合体させちゃうという。

ーーすごく俯瞰的な視点を持っているんですね。

 僕は幼少から横浜に住んでいたんですが、母が渋谷のデパートで働いていたので、横浜と渋谷のカッコいい部分を両方知ることができたんですよ。僕が俯瞰的な視点を持つようになったのは、それが大きく影響していると思いますね。横浜のカッコよさは肩の力が抜けてるところ。スーツをTシャツみたいに着倒しちゃう感じ。東京はもっとIVYでカチッとしてるんですよ。一歩間違うと七五三みたいになっちゃうけど、カッコいい人にはスタイルがありましたね。僕はどっちも好き。当時からハイブリッドだったんです(笑)。

クールスと堺正章のカッコよさ

ーー剣さんはクールスに所属されていましたが、そこではどんな影響を受けましたか?

 しなやかでいることですね。みんな若かったから刺激を求めていたけど、決して不良ではなかったと思います。人を傷つけたり、むやみやたらに威圧するようなはことは絶対にしなかった。みんな粋を追求してたし、品があった。行儀悪いことや下品なことすると先輩たちから怒られるんですよ。でもクールス内での礼儀作法については無礼講。「年上でも敬語を使うな」とか「さん付けはやめろ」と言われたりね。それでも僕はなかなかそんなふうに話せなかったので、ステージ上だけで勘弁してもらってました(笑)。

ーーあと本書では堺正章さんが度々登場しますね。

 あの方は本当にクリエイティブなんですよ。お宅にも何度か伺ったんですが、お部屋の色合いのセンスがとってもおしゃれなんです。選ぶものがいちいちカッコいい。

ーー堺さんとクラシックカーのレースに参加したお話が面白かったです。

 なかば強引にね(笑)。僕は食事の席で堺さんが参加されてるクラシックカーのレース「ラ・フェスタ・ミッレミリア」についてちょっと質問しただけだったんですよ。そしたら次に会った時にそのレースの申込書が用意されてたんです。僕はクラシックカーなんて持ってないのに。しかもレンタルではダメですよ!って(笑)。

ーークラシックカーというと高額なイメージが……。

 実はピンからキリまであるんですよ。その時、僕が購入したのがAUSTIN-HEALEY 100-4というクラシックカーの世界では入門編みたいな車。子供の頃から憧れていたんですが、それがたまたま僕でも購入できるお手頃価格で市場に出ていると、堺さんが教えてくれたんです。それで思い切って購入しました。でもクラシックカーはメンテナンスが本当に大変で。何度かオーバーホールに出したりして、最終的には車体価格以上のお金がかかってしまいました。ちなみに、現在は撮影に貸し出す車両モデルとしてプロダクションに登録中。ぜひご用命くださいね(笑)。

今の世の中と互換性のあるものだけを過去から持ってくる

ーー中古車市場とヒップホップやカルチャーとの関連性もものすごく興味深いエピソードでした。

 MERCURY COUGAR XR-7の回ね。この車はR&Bシンガーのラファエル・サディークが2004年に発売したアルバム「ラファエル・サディーク・アズ・レイ・レイ」のジャケットにフィーチャーされたんですよ。それまではかなり雑に扱われてた車だったんですが、急に人気車になっちゃった(笑)。あと、アメリカの高校生の入門車として人気のNISSAN BLUEBIRD 510。向こうだとDATSUN 510というんだけど。日本車なのに意外ですよね? でも実はこの車をスヌープ・ドッグが「エゴ・トリッピン」というアルバムのジャケに使ったんです。その影響で高校時代を懐かしむアメリカ人の間でBLUEBIRD 510に人気が集まったようです。

ーーそれもある種の「時間が経った今だからこそわかる良さ」ですよね。

 そうそう。この感覚を自分のものにできたのは、レアグルーヴの概念を知った時。90年代くらいまでのヒップホップのトラックは、過去のレコードをサンプリングして作ったものが殆どでした。いわゆる元ネタというやつですね。その時代に使える部分だけをサンプリングして、組み替えて新しいものにするという。僕なんかは世代的に元ネタのレコードをリアルタイムで普通に聴いていたんですよ。でも「ヒップホップのトラックにサンプリングされている」ということを踏まえて当時のレコードを改めて聴き直したら、全然違う音楽に聴こえた。代表的なのはジェームス・ブラウンです。それまではオールディーズのように捉えられていたけど、レアグルーヴの概念を通すとヒップホップ以降のグルーヴを感じることができた。この考え方のセンスが、僕の中でいろんなことに波及していったんです。

ーー「考え方のセンス」というのはものすごくカッコいいですね。

 ヒップホップって貧乏人の知恵から生まれた音楽だと思うんですよ。アイデアとクリエイティヴィティでなんとかしちゃうというか。僕は小5からアルバイトしてたからすごく貧乏だったわけじゃないけど、その分、全く勉強の出来ない子供でした。きっといろんなカッコいいものを見逃していたと思うんだけど、今はGoogleみたいな便利なものがあるから、ふとしたきっかけにいろいろ細かく思い出すんですよ。

ーーGoogleを介して「昭和にワープ」するわけですね。

 まさに(笑)。だから僕はオールディーズの専門店とかには興味ないんですよ。古いものが全て良いわけじゃないですからね。あそこじゃ昭和にワープできない。大事なのは今の世の中に響くこと。現代と互換性のあるものだけを過去から持ってきたい。それで僕なりにカスタマイズするんです。

結局自分が好きか嫌いかしかない

ーー僕は全然車に興味なかったんですが、この本を読んだらおしゃれして、好きな音楽を流してドライヴしてみたいと思っちゃいましたね。

 自分なりに楽しむロジックを作っちゃえばいいんですよ。

ーーこの本で紹介されてた車だったらTOYOTA COROLLA LEVIN TE-27に乗って、ヒップホップグループ・BAD HOPを聴きながら、川崎の工業地帯を走りたいです(笑)。

 いいね! それが「昭和にワープ」(笑)。僕はこの本で、COROLLA LEVINは矢沢永吉さんが在籍した川崎のロックバンド・キャロルを聴きながら京浜工業地帯を走りたいと書いたけど、まさにそういう感覚なんですよ。BAD HOPは現代のキャロルだと思う。彼らは自分たちの地元である川崎の京浜工業地帯の煙突から火がボウボウ出てる感じを体現していますよね。今の時代にキャロルの模倣をしても彼らの本質には到達できない。大事なのはそれを現代に置き換えること。キャロル自体は不良じゃなかったけど、BAD HOPは本物だからさらに強烈ですね(笑)。

ーー剣さんは、いろんなことを参考書的にインプットしているのではないところが面白いですね。

 だって何が正解かなんてわからないですからね。結局自分が好きか嫌いかしかない。誰かのために何かをインプットするなんて馬鹿馬鹿しいじゃないですか。音楽もそうなんですよ。一番最初は脳内で鳴った音。そこは自分の本当に好きな、カッコいいと思ったもの。この根本の部分を誰かの好みに合わせてもしょうがない。そこをベースにいろいろサンプリングするんです。今の時代に通用する過去のカッコいいことを、脳内で都合よく作り変えちゃう。クレヨンしんちゃんみたいに。

ーーそれはもしかして映画版「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲」のことですか?

 ああ、そう! 現代から過去に行って何かやらかすみたいな。僕は全然知らなかったんですけど、たまたまテレビを点けたらやってたんですよ。最初のほうは真剣に見てなかったんだけど、徐々に引き込まれてしまって。終わる頃には、涙も鼻水もダーダーに出ちゃってましたね。

ーーまさに「昭和にワープ」な映画ですもんね。

 結局、どの時代もみんながそれぞれでやりたいことをやってるだけなんですよ。でも今現在起こってることのヤバさって、意外と同時代だと近すぎてわからなかったりもする。もしかしたらそこらへんを当たり前のように走ってる車だって、数十年後にはとんでもないプレミアがついてる可能性だってある。そう思えば、今の街の景色の見え方も変わってくるんじゃないかな?