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ブラジル一直線はシュールに通ず

いつか深い穴に落ちるまで 著者: 出版社:河出書房新社 ジャンル:小説

価格:1458円
ISBN: 9784309027616
発売⽇: 2018/11/15
サイズ: 160ページ

評者:野矢茂樹 / 朝⽇新聞掲載:2019年01月12日

いつか深い穴に落ちるまで [著]山野辺太郎

 読み終わったとき、いささかあっけにとられた。なんだこりゃ。確かに、のっけから荒唐無稽な話で、それがまるで無防備に物語られるから、毒気を抜かれて突っ込む気も起きずに、ありゃりゃとかワハハとか読み進んで、しかも、それがけっこうまじめにリアルな肉付けをされて、面白がっていたら、最後の三十ページぐらい、ぐううっと話が凝縮されてくる。気楽に読んでいたのが目が離せなくなって、読み終わったときにはユーモア小説の読後感ではなく、とてもシュールな感覚に襲われた。
 つまり、こういう話なのですよ。戦後すぐに日本―ブラジル間を貫く穴を掘ろうと考えた人がいて、実はその計画は続いていて、ついにそれが完成したんですね。え、そんな計画、聞いたことないって? そりゃそうですよ。成功するかどうかも分からんものに予算を使おうってんだから、隠密裏の国家事業です。え、地球の真ん中って暑いんじゃないのって? ああ、そりゃ字が違う。暑いじゃなくて熱い。なんてものじゃない。けど、だからそんなことはどうでもいいのですよ。とにかく、こっちと地球の裏側とを最短距離でつないで行き来しやすくしようという計画。ついでに言うと、日本側の入り口は山梨県です。
 小説としてはあれこれ計算されていて、よくできているのだけれど、どっかタガが外れてるんだよね。それで、最後のところ。正直に言って、ここを読むまでは書評しようとは思わなかった。でも、ここを読んで感じいってしまった。だけど、読んでのお楽しみだから書けない。こういう小説の書評って、斎藤美奈子さん、どう書けばいいんですか? 書けないけど、書きたい。えい、書いてしまおう。最後は、主人公の鈴木一夫が水泳パンツをはいて○○に飛び込んで、○○を突き破って、○○へと飛び出していくのである。
 読者は「おおっ」と呻(うめ)くしかない。
    ◇
やまのべ・たろう 1975年、福島県生まれ宮城県育ち。会社員。本作で18年の文芸賞を受賞し作家デビュー。