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住民投票 政策の欠陥への警鐘、沖縄でも

2月24日の県民投票を知らせる広報=那覇市

 日本では、この20年あまりの間に、条例にもとづき400件を超える住民投票が実施されてきた。
 投票はなぜ求められてきたのか。村上稔『希望を捨てない市民政治』は、住民投票運動の当事者による回顧録である。記述からは、行政を統制することの困難さや議会の機能不全など地方政治の問題点が透けて見える。ある日、そのような現実に直面した市民たちにとって、住民投票はこれらを是正するための「最後の手段」であった。
 ただし、住民投票という手法は、今なお論争の的でもある。住民投票とは多数決にほかならないが、坂井豊貴『多数決を疑う』によれば、意見集約の方法として、多数決は唯一のものでも、欠点のないものでもない。例えば、選択肢が三つ以上になった場合、多数決は「票の割れ」(票が分散した結果、「漁夫の利」を得た形で勝利する選択肢が現れること)に弱いなどの難点が指摘されている。

議会活性の触媒

 選択肢に関しては、これが実効性を欠くことによって投票そのものの意義が失われるという懸念や、選択肢が未成熟であったことを理由に、これを変更しての再投票が繰り返し要求されるといった懸念もある。つまり、住民投票を意義あるものにするには、選択肢をよく吟味したうえで、二つ以下に絞り込むことが望ましい。その作業を担うのは本来議会のはず。わたしたちが目指すべきは議会が機能する政治であって、議会のない政治ではあるまい。
 その議会と住民投票の関係はどうとらえるべきであろうか。議会を市民に代わる存在とすれば住民投票は否定されるが、市民の意志に従う存在とするならば肯定される。早川誠『代表制という思想』は、この相反する要請のなかにこそ代表制の意義を見る。市民の「意志」が重要である一方、人々の意志が断片化し流動化するなかでは「判断」もまた議会には求められる。
 早川は、(「極端な形で表現するならば」と断ったうえで)代表制の意義は「民意を反映しないことによって民主主義を活性化させることにある」とする。他方、「常に市民の意見の動きや変化を伝えて政策論争の材料を提供すること」を市民の役割とする。そうして、「直接民主主義を推進しながらも、それを代表制再生の触媒とすることこそ現代の民主制運営に必要なスタンス」なのだと説く。市民と議会の没交渉こそ避けるべきものとするならば、住民投票は代表民主制を活性化させる触媒として積極的に評価できるものであると評者は考える。

争いの根底問う

 住民投票は議会への不満だけをその動機としてきたのではない。初期の住民投票は産廃処分場の建設を問うものが多かったが、これはその立地選定や住民合意のプロセスに深刻な問題が見られることを告発する役割を果たしていた。つまり住民投票を求める声のなかには政策や制度、運用などに欠陥があることへの警鐘が含まれている。
 「反対多数」の投票結果が出たとしても、それが直ちに沖縄・辺野古沿岸部の埋め立て中止に「直結」しないことが予想される今回の県民投票は、多分にこの性格を備えている。では、何に警鐘を鳴らそうとしているのであろうか。
 いま、この瞬間にも辺野古では埋め立てをめぐり人びとが分断されているのだろう。前回の県民投票から数えてもおよそ四半世紀、選挙のたびにウチナーンチュ(沖縄の人)は争わされてきた。なぜウチナーンチュどうしが争わなければならないのか、誰がウチナーンチュを争わせているのか、投票が問うているのはそのことなのではないだろうか。=朝日新聞2019年2月16日掲載