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ケロポンズの増田裕子さんの絵本「ねこのおいしゃさん」 治療はすべて気合の「ニャー!」

文:日下淳子、写真:黒澤義教

増田:『ねこのおいしゃさん』は、最初は絵本ではなくて、ミュージックパネルのお話でした。ミュージックパネルというのは、ボードに絵人形を貼ったり、動かしたりして演じるパネルシアターに音楽をつけたものです。25年ぐらい前、「音楽広場」(クレヨンハウス)という雑誌でミュージックパネルの連載をしていたときに作った作品のひとつが、『ねこのおいしゃさん』です。

コンサートでもこの演目をよくやっていたら、絵本作家のあべ弘士さんが「これはおもしろいね」とすごく気に入ってくれて、「絵本にするなら、おれが絵を描く!」って言ってくださったんです。一緒に公演をしていた中川ひろたかさんも「これは絵本にしたらいい」と勧めていただいて、そうえん社さんから出すことになりました。

――『ねこのおいしゃさん』では、あべ弘士さんの描く動物たちがとても生き生きとして印象的です。

増田:もう、あべさんが描いてくれるってだけで、天にも昇るような嬉しさでしたよ。絵本にするとき、唯一、キリンの首が折れ曲がっちゃうのはまずいってことになって、そこだけ変えました。パネルシアターだとパッと動かして治せちゃうんですが、絵本ではキリンの首が縮んじゃう話になっています。

平田:あべさんは、ミュージックパネルで、首が後ろに曲がっているのを見て「動物の脊椎は、あんなふうに後ろには折れない!」って言ってましたよね。

増田:そう、本当に動物に詳しい方だから! あとは、お医者さんの治療はすべて「ニャー!」と気合を入れるんですが、この「ニャー」も、あべさんはわざわざ手書き文字にしたり、長くしてくれたり、すごい遊んでくれました。患者のキツネさんがいろっぽい女の人になってたのも、意外性があって驚きましたね。

『ねこのおいしゃさん』(そうえん社)より
『ねこのおいしゃさん』(そうえん社)より

同じキツネのシーンでも、絵本とミュージックパネルでは雰囲気が異なっている
同じキツネのシーンでも、絵本とミュージックパネルでは雰囲気が異なっている

――巻末に「ねこのおいしゃさん」という歌の楽譜が載っていますが、ケロポンズではどんなふうに読み聞かせているのですか?

増田:私たちがコンサートでやるときは、ポンちゃん(平田さん)がウクレレを弾いてくれて、「ねこのおいしゃさん」を一緒に歌ってから始まります。私がお医者さん、ポンちゃんが患者さんになって演じてますね。♪ねこ、ねこ、ねこーのおいしゃさーん……「はい、つぎのかんじゃさんどうぞ~」。

平田:「はぶーっ ぜんぜい……ぼぐ、ばなづまりなんでず…」と患者が来るという繰り返しですね。

増田:でも歌は歌わなくてもいいし、最後だけ歌ってもいいし、決まりはないと思っています。基本は子どもの反応によって、子どもの言葉を聞いてあげながら読んでいただけたら、一番嬉しいなと思いますね。

平田:決まりはないといえば面白い話があって、以前、女優の本上まなみさんに、歌でお話が進んでいくケロちゃん(増田さん)の絵本をあげたことがありました。何年か後にお会いして「この絵本、子どもたちが好きで」ってその歌を歌ってくださったんですが、全く違う曲だったんですよ! でもその歌が、すごく楽しくて! しかも家族全員がその歌を歌えるんです。

増田:私がその後、本物を歌ったら、お子さんが「そんな歌じゃないよ~」って(笑)。でもご家庭で好きなように歌っていただいていいと思うんです。楽譜通りに歌うってことが大事なんじゃなくて、音やリズムがあってより楽しく読めるっていうのが、音楽がついている絵本の良さなんだと思っています。

平田:絵本についているメロディーは比較的シンプルなので、「ねこのおいしゃさん」の歌も、コンサートで1回歌うと、2回目ぐらいから子どもたちも一緒に歌ってくれます。繰り返しても覚えやすいんでしょうね。最後は「はいっ、おーだーいーじーにー♪」ですもんね。

増田:昭和っぽいですかね。クレイジーキャッツっぽいっていうか?

平田:好きですもんね。クレイジーキャッツ(笑)。

増田:ゾウの患者さんの話は、お話を作る際に、ポンちゃんが、「ゾウの鼻づまりなんていいんじゃない?」ってアイデアを出してくれたんですよ。ポンちゃんがやる鼻づまりのゾウさんは、絶品におもしろいんです。すごいクシャミするところから始まって、子どもが大笑いします。そんなふうに、いくらでも遊べるお話かなと思っています。

平田:子どもに患者さんをやってもらって、読み手がお医者さんをしたり、分けて読んでもおもしろいですよね。

増田:そうですよね。「ニャー」という言葉をストーリーの中に入れたのも、お客さんも一緒に言ってほしいという思いがありました。ここは、読み聞かせでも盛り上がります。

――気合で治す、というところも、子どもたちには面白いですよね。

増田:子どもってお医者さんに行くのは苦手じゃないですか。だから、こういうふうに「気合」で治ったらいいなあ、という願いもこもっています。絵本だとそういう、あるわけなさそうな妄想で展開できるのがいいんですよ。それに昔から、気功のような手で治す力って割と信じているほうですね、病は気からって言うから。ぜひ、病気の人もこういうバカバカしいお話で笑い飛ばしてくれたらなって思いますね。