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朝日新聞「平成の30冊」を発表 ⑥4-10位を紹介 「震災後」をいかに生きるか

  • 4位「観光客の哲学」(東浩紀)
  • 4位「OUT」(桐野夏生)
  • 4位「火車」(宮部みゆき)
  • 7位「銃・病原菌・鉄」(ジャレド・ダイアモンド)
  • 8位「博士の愛した数式」(小川洋子)
  • 9位「〈民主〉と〈愛国〉」(小熊英二)
  • 10位「ねじまき鳥クロニクル」(村上春樹)

『観光客の哲学』(東浩紀、ゲンロン、2017)

 東浩紀氏は本書の冒頭で「ネットとテロとヘイトに覆われた世界において、ほんとうに必要とされる哲学はどのようなものかを考えてきた」と記した。毎日出版文化賞を受賞した。
 国際政治学者の三浦瑠麗さんは「現代世界においてリアルな主人公は大衆であり、彼らの当たり前の欲望であるという視点から、現実的な人間像を前提とした希望に満ちた世界の可能性を描き出している。激しい同時代性をまといつつ普遍的なものに迫る哲学である」としている。

『OUT』(桐野夏生、講談社、1997)

 深夜の弁当工場で働く女性たちが、仲間が殺した夫の死体をバラバラにして捨てる。複雑に絡まる人間模様の果てにあるものを描いた。日本推理作家協会賞受賞。
 ノンフィクション作家の梯久美子さんは「パート主婦という器に、繊細にして凶暴、複雑で魅力的な人格を入れ込み、読者を驚嘆させた。クライムノベルの世界的傑作」。米国ミステリー界最高のエドガー賞の候補になった日本で初めての小説。

『火車』(宮部みゆき、双葉社、1992)

 多重債務を抱えて自己破産し、犯罪に手を染めていくある女性。その人生を通して、カード社会が抱える闇に迫ったミステリー小説だ。山本周五郎賞を受賞。
 ジャーナリストの森健さんは「バブル崩壊の時期に発表された本書は、平成という時代を予見するかのような設定。哀切さを伴う背景、終幕まで読ませるドラマ性は、多作の著者の作品の中でも随一の輝き」と評価した。市田隆・朝日新聞編集委員は「1990年代のエンタメ小説隆盛を決定づけた作品」とした。

『銃・病原菌・鉄 一万三〇〇〇年にわたる人類史の謎』(ジャレド・ダイアモンド、倉骨彰訳、草思社、2000)

 世界の地域間格差を生んだものは何か、人類史をたどりながら分子生物学、生物地理学、考古学、文化人類学などの最新知見を駆使して挑んだ。ピュリツァー賞受賞。
エッセイストの山口文憲さんは「文明の発生の条件と伝播の条件を、地球儀的に説明しようと試みた、近来まれにみるスケールの大きな仮説。読ませる工夫もこらしている」とした。

『博士の愛した数式』(小川洋子、新潮社、2003)

 事故の後遺症で記憶が80分しかもたない老博士と、静かに世話をする家政婦、博士が「ルート」と名付けた彼女の息子が織りなす物語。第1回の本屋大賞を受賞。
 国立天文台教授の渡部潤一さんは「数学のおもしろさを表すのに成功しただけでなく、小説としての完成度も高い」。ジャーナリストの梶山寿子さんは「今や直木賞よりも影響力を持つ本屋大賞の、記念すべき最初の受賞作。そういう意味でも『平成』を象徴しているのでは?」。

『〈民主〉と〈愛国〉 戦後日本のナショナリズムと公共性』(小熊英二、新曜社、2002)

 社会学者、小熊英二氏の日本人論の第3弾。日本の戦後思想を戦争体験が思想化されたものと捉え、個人史と結びつけて分析した。大佛次郎論壇賞、毎日出版文化賞を受賞。
 青山学院大特任教授の間宮陽介さんは「戦後日本の代表的知識人を取り上げ、民主と愛国、ナショナリズムと公共性の複雑なねじれを論じている。文学的な『読ませる』本であるのも特徴で、江藤淳論は特に優れている」と評した。

『ねじまき鳥クロニクル』(村上春樹、新潮社、1994)

 『ねじまき鳥クロニクル』は第1部と第2部が平成6年に、第3部が翌年に刊行された。失業中の「僕」は失踪した妻を捜して枯れた井戸の底に潜り、別の世界を見る。満州国とモンゴルとの国境ノモンハンで起きた日ソの戦闘も取り上げ、暴力と闇を描いた。読売文学賞の受賞作。
 精神科医の香山リカさんは「暴力、人間の悪意、欲望のすさまじさが村上春樹的な寓話的物語世界の中でリアルに描かれていた」と評した。作家の長薗安浩さんは「それまで村上作品では希薄だった『悪』との対峙が描かれる。個別の悪や集団的悪など、この困難なテーマを取り込むことで、その後の村上作品に新たな魅力をもたらした転換点的な作品」とした。

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