1. HOME
  2. 書評
  3. 「天然知能」 自分を外に開いて受け入れる

「天然知能」 自分を外に開いて受け入れる

天然知能 (講談社選書メチエ) 著者:郡司ペギオ幸夫 出版社:講談社 ジャンル:新書・選書・ブックレット

価格:1836円
ISBN: 9784065145135
発売⽇: 2019/01/12
サイズ: 19cm/249p

いまこそ天然知能を解放しよう。人工知能と対立するのではなく、想像もつかない「外部」と邂逅するために−。「知覚できないが存在する外部」について、多様な動物の行動や植物の実験…

評者:野矢茂樹 / 朝⽇新聞掲載:2019年03月09日

天然知能 [著]郡司ペギオ幸夫

 一緒に散歩しながら、ちょっとくつろいだ感じで研究の話を聞く。さらにその相手が郡司さんだと、ひと味ちがったものになる。なにしろ話しかけられているのかと思ったら独り言だったり、独り言を呟き始めたのかなと思ったらなんだ話しかけられてたのかといった具合で、しかも、どうでもいいような具体的な話と極度に抽象的な話が混然一体となっている。「私は、インスタントの、袋麺の焼きそばが大変好きです」って、これ、いったいどういう脈絡で言われたのか分かりますか? どうも郡司さん自身が「天然」で、だから、本書は巧まずしてユーモラスにもなり、ときにポエティックでさえある(個人の感想です)。
 人間だってけっきょくのところ物にすぎない。その人間がどうして意識や心をもちうるのか、それを説明するのが天然知能である。人工でも、自然でもなく、天然。人工知能は、訳の分からないものを無視する。他方、自然科学に代表される自然知能は、訳の分からないものを訳の分かったものにしなければ気がすまない。天然知能はそのいずれとも異なっている。
 手際よく処理したり、着実に探求を進めたりする活動の外部から訳の分からないものが闖入し、掻き乱してくることがある。その訳の分からなさに積極的に自分を開いていくこと、それが天然知能である。天然のまなざしで見るならば、世界は自分の了解を超えた訳の分からない外部の予感に満ちている。
 システムは、それをずらし攪乱する力を取り込む仕掛けを持っていなければいけない。この単純で力強い洞察が、さまざまな場面で適用される。郡司さんの専門は、それを数理モデルとして実現することで、話がそっちに行くと、難解になり、なかなか理解が追いつかなくなる。だが、そのときこそ読者は天然知能となるべきなのだ。よく分からんが、ここにはきっと何かがある!
    ◇
 ぐんじ・ぺぎお・ゆきお 1959年生まれ。早稲田大教授。理学者。著書に『群れは意識をもつ』など。伝説多数。