現在、私たちヒトにもっとも近縁な生物は、チンパンジーとボノボだ。そのため、たとえばチンパンジーを、私たちの隣人と呼ぶこともある。そういうたとえを使うなら、たしかにチンパンジーは私たちの隣に住んでいる。でも近くではなく、かなり遠くに住んでいる。そのあいだに家が一軒もないので、いちおう隣人と呼ばれているにすぎない。
でも昔は、私たちとチンパンジーの家のあいだにも、たくさんの家が立っていた。私たちから見て、チンパンジーよりも近縁な生物がたくさんいたのだ。
本書は一般書としては初めて、アジアにおける人類の進化をテーマにした本である。
人類の進化というと、これまではアフリカやヨーロッパを中心にして語られることが多かった。しかし、およそ180万年前に原人と呼ばれる人類がアフリカから出たあとは、アジアにもさまざまな原人が住みついた。
身長がわずか1メートルあまりしかない、おとぎの国の小人のようなフローレス原人もいた。身長が2・5メートルもある巨人と勘違いされた、大きな歯をもつ原人もいた。アジアは人類進化のホットスポットだった可能性が高いのだ。
本書の大きな魅力は、研究の現場を、つまり過去の人類の姿を描き出すために、科学者がどんなことをしているかを、作家で科学ジャーナリストとしても活動する著者が生き生きと紹介していることだ。
化石だけでなく、化石が出た地層も大事だ。さらに、化石の形についての緻密(ちみつ)な考察や化学分析などを駆使して、かつての人類の姿に肉薄していく。その描写は、小冊子ながら迫力がある。
現在、ヒト以外の人類はアジアから(そして世界中からも)消えてしまった。その理由は難しい。我々はなぜ我々だけなのか。それを探るために科学者は何を考えているのか……。新書だが、内容は軽くない。
◇
講談社ブルーバックス・1080円=8刷2万部。17年12月刊行。昨夏、本書は講談社科学出版賞を受賞。それを機に、それまでの中高年男性だけでなく若者や女性にも広まった。=朝日新聞2019年3月9日掲載
編集部一押し!
- 著者に会いたい 坪田侑也さん「八秒で跳べ」インタビュー 21歳が放つ王道青春小説 朝日新聞読書面
-
- ニュース 本屋大賞に「成瀬は天下を取りにいく」 宮島未奈さん「これからも、成瀬と一緒なら大丈夫」(発表会詳報) 吉野太一郎
-
- 本屋は生きている ヤンヤン(東京) 急な階段の上で受け取る「名も無き誰かが残した言葉」 朴順梨
- インタビュー 北澤平祐さんの絵本「ひげが ながすぎる ねこ」 他と違うこと、大変だけど受け入れた先にいいことも 坂田未希子
- インタビュー 「親ガチャの哲学」戸谷洋志さんインタビュー 生まれる環境は選べない。では、どう乗り越える? 篠原諄也
- 小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。 【特別版】芥川賞・九段理江さん「芥川賞を獲るコツ、わかりました」 小説家になりたい人が、芥川賞作家になった人に聞いてみた。 清繭子
- インタビュー 新井紀子さん×山本康一さん対談(後編) 辞書は民主主義のよりどころ PR by 三省堂
- インタビュー 新井紀子さん×山本康一さん対談(前編) 「AI時代」の辞書の役割とは PR by 三省堂
- インタビュー 村山由佳さん「二人キリ」インタビュー 性愛の極北に至ったはみ出し者の純粋さに向き合う PR by 集英社
- 朝日ブックアカデミー 専門外の本を読もう 鈴木哲也・京大学術出版会編集長が語る「学術書の読み方」 PR by 京都大学学術出版会
- 朝日ブックアカデミー 獣医師の仕事に胸が熱く 藤岡陽子さんが語る執筆の舞台裏 「リラの花咲くけものみち」刊行記念トークイベント PR by 光文社
- 朝日ブックアカデミー 内なる読者を大切に 月村了衛さんが語る「作家とはなにか」 「半暮刻」刊行記念トークイベント PR by 双葉社