作家の川上未映子さんが2月、「小説を読むこと、書くこと」と題して北九州市で講演した。同市が主催し、川上さんが選考委員を務める「第5回林芙美子文学賞」の表彰式での記念講演(同市、朝日新聞社共催、朝日新聞出版協力)。聞き手は同市立文学館の今川英子館長。
川上さんは2017年、女性の書き手82人を集めた「早稲田文学増刊 女性号」を責任編集した。文芸誌としては異例の増刷がかかり反響を呼んだ。「論壇誌は書き手が全員男性であることはめずらしくない。女性だけが創作について書いている本が、一冊くらいあってもいいだろうと」
樋口一葉から村田沙耶香さんまで、古今東西の詩や小説などを掲載。「それぞれの作品に取り換えのきかないリアリティーがあるが、(その背後に)『書かれなかった物語』が同時に見える気がした」という。
「女性の中でも、自分の言葉で発言できる人は恵まれた立場にある。自分が考えていることを言葉にする発想を持たない人、言葉を持つ機会を与えられていない人たちがたくさんいる」
それは「貧困家庭の出身」という川上さんが見て育った現実でもある。
「文学界」3、4月号で、長編「夏物語」を発表した。父親が失踪、母親は早くに亡くなり、自ら働いて育った女性の物語だ。
「小説を書くことが何かを照らすことであるなら、私が書きたいのは、声を持たずに生きてきた人たちの世界。その気持ちになれたのは、女性号をやらせてもらった経験が大きかった」(上原佳久)=朝日新聞2019年3月13日掲載
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