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「胎児のはなし」 おなかの中の不思議な仕組み

胎児のはなし 著者:増崎 英明 出版社:ミシマ社 ジャンル:健康・家庭医学

価格:2052円
ISBN: 9784909394170
発売⽇: 2019/01/29
サイズ: 19cm/319p

妊娠・出産にまつわる素朴なギモンから、科学技術がもたらした恩恵と課題、胎児医療の最前線まで。新時代の産婦人科界を牽引した産婦人科医・増崎英明に、ノンフィクションライター・…

評者:野矢茂樹 / 朝⽇新聞掲載:2019年03月16日

胎児のはなし [著]最相葉月、増崎英明

 胎児は一日に700ccほどおしっこする。でも子宮にその出口はない。どうするか。自分でそれを飲んじゃうのだという。「どういえばいいんだろ、胎児っておもしろいでしょ。なんですかね、あの人は」と、増﨑さんは言う。うんちは?しない。
 増﨑さんは長年産婦人科の治療と研究に携わってきた。そして最相さんが生徒役になって、対談が進む。ずいぶん勉強している生徒だと思うが、素朴な質問もずけずけと突きつける。すると先生がやたら楽しそうにそれに答えるのである。胎児というよく分からなかった存在が、機器や技術の進展に伴い研究が進んで、徐々に分かってくる、そのときの無邪気とも言える増﨑さんの驚きと喜びが読者にも伝わってくる。と同時に、生殖に関わる技術が進んでいくことに対するこわさも率直に吐露する。そんな増﨑さんに対して、最相さんはおそらく、胎児の話を聞くという表の動機をもちつつ、このちょっと変わった、愉快で心優しい先生の人物像を描き出すという裏の動機にも、導かれたに違いない。
 とにかくぼくが一番不思議だと思うのは、と増﨑先生は言う。胎児が空気にまったくふれていないことです、と。羊水の中で鼻も口も、肺の中も水浸し。しかし子宮の外に出たら呼吸しなければいけない。そこで狭い産道をむりやり通って出ていくときに、ぎゅーっと肺の中の液が絞り出されるのだという。そして産道通過後に肺がぱーんっと開く。「めちゃくちゃよくできてますよね。」 いや、へえ、そうなんだ。感心するしかない。
 こんな話が次々と紹介され、それを楽しそうに話す先生と楽しそうに聞く生徒がいて、こっちも楽しくなってくる。だけど、読み終えて本を閉じると、言われるまでもないあたりまえのことが、不思議で、とても新鮮に思えてくる。――そうだ、私たちはみな、胎児だったのだ。
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さいしょう・はづき 1963年生まれ。ノンフィクションライター。▽ますざき・ひであき 52年生まれ。医学者。