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みんな労働者をやめて、経営者になったほうがいい! オリラジ・中田敦彦さんが掲げる「労働2.0」

文:福アニー、写真:樋口涼

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 2019年3月。初めて観たお笑いライブの帰り道、「お笑いを超えて同い年でがんばっているのって、オリラジのあっちゃん(オリエンタルラジオの中田敦彦さん)くらいかなあ。RADIO FISHとしての『PERFECT HUMAN』もインパクト凄かったし」とぼんやり思っていた。その翌日、この取材依頼があったのでびっくり。最近では芸人や音楽活動のみならず、自身のオンラインサロン(NKT Online Salon)やアパレルブランド「幸福洗脳」の立ち上げ、弟分グループFAUSTのプロデュース、青山学院大学の客員講師着任と活躍の場を広げている中田さん。そんな彼が、新著『労働2.0 やりたいことして、食べていく』(PHP研究所)を刊行した。社会構造や教育にまで話が及んだ独自の働き方改革とは? 労働者として、経営者として、モヤモヤしている同世代に喝を入れていただいた。受け答えの随所で「あっちゃん、かっこいい!」と「武勇伝」の合いの手を入れそうになったインタビューをどうぞ。

ビジネスの主人公はオーナー、アーティストは労働者

――『労働2.0 やりたいことして、食べていく』というタイトルを見た時、ハンナ・アレントの『人間の条件』に出てくる「労働・仕事・活動」を思い出しました。「労働」という言葉をチョイスしたのはなぜですか? また「やりたいことして、食べていく」はYouTuberの「好きなことで、生きていく」を彷彿とさせました。

 編集者と話し合う中で、その言葉に集約していきましたね。おもしろいと思うのが、日本人の三大義務の一つに「勤労(労働)」が入ってるんですよね。労働が義務になってる国って他にないらしいんですよ。本当は働かなくてもいいのに、誰かに雇われて働くしかないっていう教育しか受けてきていない。でもいまは雇う側である組織そのものが疲弊してるので、自分自身が経営者や資本家になって、もう労働者やめませんか?という意味で「労働2.0」。「2.0」の部分で「労働」を超えていこうってニュアンスが出ればいいなと。

 サブタイトルの「やりたいことして、食べていく」は、この本のPR動画を撮った時にキャッチコピーはこれでいいんじゃないですかって言ったら、表紙にねじ込まれてました(笑)。おっしゃる通りYouTuberの「好きなことで、生きていく」がヒントに。結局周りの話を聞いていると、そういう生き方ができませんって悩みばかりなので、どうすればできるかという体験談を本には盛り込みました。

――もちろんやりたいことをして食べていけたらハッピーだと思うんですけど、やりたくないことをやって悶々としているか、やりたいことをやっているつもりでも鳴かず飛ばずで悩んでいるかの人が多い気がします。

 やりたいことをするかしないかというのは実は二の次で、本当に大事なのは「お金の作り方」がわかることだと思ってます。そうすれば自然とやりたいことが見つかる。お金の作り方がわからないから、言われたことをやらされるか、自分の考えてることをやってるけどお金が作れてないかって状況になる。僕の場合、やりたいことをすると決めたのがお笑い芸人になれた瞬間だと思うんですね。やりたいジャンルの仕事に就きながらお金を稼ぐってフェーズで十数年走ってきました。そこではお金をもらっていたんですけど、お金を作ってはいなかった。だからやりたくないことも飲まなきゃいけなかった。でも2018年1月にお金の作り方を考えようと思って、この1年間でお金を作る方法を実験した成果報告がこの本なんです。

 お金についての正しい知識を身につけようとしたきっかけは、RADIO FISHの「PERFECT HUMAN」がまったくお金にならなかったから(笑)。結局のところ、「栄光」を得ても「成功」とは関係がなかったってことなんですよね。みんなヒット作を生んで有名になればお金持ちになれると思ってるんですけど、有名になることとお金持ちになることは決してイコールではない。

――え!! 2016年に大ヒットして紅白歌合戦に出場されたにもかかわらずですか?

 年間のダウンロード数第1位になっても、メンバー1人につき報酬が100万円にも満たなかったんじゃないかな。いまCDが売れてる人たちって、一部のアイドルグループくらい。いわゆるビックリマンチョコ現象ですよね。チョコが食べたいんじゃなくてシールが欲しいように、CDじゃなくて握手会などのファンサービスを受けたい。そういうわけで運営側も、付加価値をつけて物を売る、物販で工夫せざるを得なくなってるんだと思います。

――「栄光と成功は違う」とのことですが、中田さんにとっての「成功」とは「やりがいがあって、かつ稼げる」ということ?

 お金を生むってことがやりたかったんですよ。「PERFECT HUMAN」も僕が企画したプランとはいえ、吉本興業がマネージメントしてる以上、原盤権は会社にあるし利益も半分以上持っていかれる(笑)。でもその仕組みを嘆く必要はなくて、自分が単純に知らなかったというだけ。お金を作る主役って、お金を出してる人なんですよね。経営者・出資者・投資家……そのビジネスのオーナーが主人公で、僕らはアーティストという名のプレイヤー、労働者なわけですよ。それをやめるかやめないかというところで、お金を出して、グッズを作って、売るってことを始めました。

 やってみて、選択肢としては爆発的に正解だなと思いました。もう二度と労働者には戻りたくない(笑)。いまは労働者と雇用者という二足のわらじを履いていますが、ゆくゆくは雇用者一本でやっていきたい。僕自身がプレイヤーであることを強みにしてビジネスも動かしてるので、どんどん軌道に乗れば、お互いを切り離していこうと思ってます。

ビジネスは失敗する、徐々に軌道に乗せる世界観が必要

――「0から1を生み出す『やりたい人』と、1から100にブラッシュアップするのが得意な『できる人』、その掛け合わせで売り方や見せ方を工夫して稼ぐ。それが働き方改革だ」というメッセージを本書から受け取りました。でも自分の適性がわからない、うまい売り方や見せ方が探せない、リスクを取って覚悟を決めることができないという人も大勢いると思うんです。そんな人たちに声をかけるとしたら?

 「リスクを取るのが怖いから一歩踏み出せない」というのが全員です。話を聞いてると、やってる人はもうやってて、やってない人は怖いからやってないって二択でしかない。やらなきゃいけないのは、まずやること。どのビジネス書にも書いてあるのが、とにかく「Just Do It」。全部ナイキですよ(笑)。

 やると決めたあとも、みんな自分のことをちょっと頭いいと思ってるからミスらない計画を立てられると思ってるんですけど、絶対にミスるんです。100%うまいくいかないので、うまくいかないのはなんでだろうって考えて、アップデートして、徐々に軌道に乗せるって世界観が必要。成功が当たり前じゃなくて、失敗が当たり前。「怖くはないんですか?」って言われるんですけど、怖くはないんですよ。なぜなら一発で目標に辿り着けないことだけはわかってるので。でも、いろいろ試行錯誤していけば、必ず辿り着けるんです。

――「社会構造の思い込みを解いて、仕組みを見直そう」という姿勢にも共感しました。働き方しかり、我々に刷り込まれているものはこの国の教育によるところが大きいんですかね。

 そこにぶち当たると思います。この国では終身雇用制などの仕組みを取って、いままではそれでうまくやってこれたってことが大きい。でもそういった豊かさが過ぎ去ってどちらかというと貧しくなってる中で、従来の構造では立ち行かなくなってるから、みんな悩んでるわけですよね。景気がよければ労働者でもいいですけど、労働者だし景気も悪いしってなると、不安や不満が出てきますよ。でもそこまで悲観はしていません。あらゆる国の盛衰や街の生き死にと同じように日本がトレンドアウトしたってだけで、ディストピアのなかで生き残るのは思ったほど難しくないと思う。日本が衰えても元気な人はいるし、海外にターゲットを置いて観光ビジネスをやったり、海外で生きていく術を見つけたりっていう選択肢もあるので。

 あと、楽しく生きることとお金持ちであることはまったく関係ないってことがすごい大事で。もちろんお金はあるに越したことないんですけど、軽トラに乗ろうがベントレーに乗ろうが目的地には行けるし、かっぱ寿司で食べようが高級寿司店の久兵衛で大トロ食べようがお腹いっぱいになるし、そんなに変わらない。しかも人間は100年足らずで必ず死ぬし、誰しも生きる時間を2倍にはできない。これは揺るぎない真実ですよね。一番大事なのは時間なんです。だから、意に反する仕事に長く時間を費やしてしまう人生が、もったいないと思ってしまうんです。

――「過去と他人は変わらないから自分が変われ」という考えが多い中で、「自分は変わらなくていい」とおっしゃっていますよね。その肯定の価値観はどうやって形作られていったんですか。

 これにはひとつの体験談があって。まず自分で物を売り始めて、それが楽しくて、そこからどんどん大量に物を売りたくなってきたんですよ。最初は講演会でオリジナルのノートを売ったんですけど、うまくいかなくて、ただ置いても人は買わないんだなと思って。ディズニーランドでも、アリエルのグッズを舞浜の駅前に置いても買わないですよね? アリエルのショーを見た後に、流れでグッズ売り場に行くから買うわけで。「ストーリーを売る」って手法が必要だと思ったので、講演会の前ではなく後にノートを売るようにしたんですね。そしたらすごい売れたんです。

 そこからノートじゃなくてもいいんじゃないかと御守りを売り始めたんです。機能がなくても物は売れるかどうかの実験がしたかったんですが、結果的になんでも売れた。それを突き詰めたのが、自分で立ち上げたアパレルブランド「幸福洗脳」。価格帯として1万円のTシャツや2万円のパーカーから始まって、シルバーアクセが10万台、革ジャンが20万台。もはやどこまで買ってもらえるんだろうってゲームなんですけど(笑)。

 いま僕がなにを楽しんでるかというと、午前中しか仕事をしないこと。しかも10時半から12時までの1時間半。10時半に自分の店に行って、打ち合わせ、出入金の確認、オンラインサロンの記事執筆やファンクラブの動画アップ。あとは店員に指示を出してお店を任せる。それで午後から遊びに行くのでも十分成り立つんです。その流れを作れるかどうか。そういうところから、「自分は変わらなくていい、ルールや仕組みを変える」という価値観になっていったかもしれないです。

――本書は具体例が豊富でイメージしやすく、とても読みやすかったです。難しいことをわかりやすく伝える技術はどうやって身につけたんですか?

 自分のなかに、めちゃくちゃ怠け者と馬鹿を用意しておくってことですかね(笑)。怠け者で馬鹿な自分は、ちょっとでも難しいことを言われると腹が立って、攻撃的になるんですよ。だからあまり肩肘張らずに、知らない自分が腹を立てないようにしゃべるっていう風にはしてます。今度復活するバラエティ番組「しくじり先生」で授業の台本を作っていたときも、ここは難しい漢字が多いから易しく、ここは文字が多いから少なくってやってましたね。ちょっと得したなって思ってもらえるものが一つあればいいので。

 この本で言いたいのも、「労働者をやめて経営者になったほうがいい」っていう一行なんですよ。でもみんなが怖いって言うから、エピソードを交えていっぱい書いただけという。結局これを読んでも怖いって人は怖いって言うと思うし、自分の考えで合ってたんだって背中を押される人もいると思うので、働き方についてそれぞれに感じてもらえたら嬉しいです。

競合がいない市場でのビジネスを続けているだけ

――「お笑いビヨンド」とでも言いたい幅広さで、音楽活動や執筆活動、アパレルブランドやオンラインサロンの立ち上げ、弟分グループのプロデュースなどもされていますね。それはもともと思い描いていたものですか? それともお笑いを突き詰めるなかで広がってきたもの?

 広がってきた感じですね。全部趣味っちゃ趣味なんで(笑)。お笑いもそれ以外も、棲み分けでいうとそんなに変わらないです。オリエンタルラジオのリズムネタ「武勇伝」もRADIO FISHの楽曲「PERFECT HUMAN」もアパレルブランド「幸福洗脳」も、すべて逆張りですし。みんながやってることを同じようにやっても埋没してしまうからっていう、シンプルなブルー・オーシャン戦略(競合がいない市場でビジネスすること)を続けてるだけなんです。

――ご自身で分析して、「武勇伝」や「PERFECT HUMAN」のヒットの要因はなんだったと思いますか? また、これからやってみたいことはなんですか?

 どちらも正解のほうに進もうという実験ですよね。ドアがきっとあるから、それを見つけようという作業の中で見つかったもの。必ずヒットが生まれるって保証はないし、本当に細かい実験を繰り返して微調整をして辿り着いたものです。

 次にやりたいのは、お金を集めたり払ったりするアプリを売ること。クラウドファンディングの仕組みをもっとコンパクトに、スピーディーにしたようなものができればと思っています。4月にはローンチする予定です。

――それは楽しみですね。4月から青山学院大学の客員講師も務めるということで、次世代の若者にどんなことを伝えていきたいですか?

 次世代になにか与えたいというよりは、次世代からなにか吸収したいと思ってますね。明らかに新人類のほうが優秀なんですよ。というのも、それまでに蓄積されたあらゆる事象をベースに勉強できるから。僕らはバラエティ番組をそんなにいっぱい見られなかったけど、僕らより下のYouTuberなんかは全部の動画アーカイヴがある、iPhoneもある、SNSもあるって世界で生きてるじゃないですか。情報量が全然違うから、絶対僕らよりおもしろいはずなんですよ。それを前提に、自分自身が勉強していきたいかな。

――それでは平成最後の春にご自身の働きぶりを振り返って、「平成」にルビを振ってください。大喜利みたいですみません(笑)。

 お~。「平成」は「青春」ですね。「青春」の次はなにが来るか知ってます? 古代中国の五行説に基づく考え方なんですけど、「朱夏」「白秋」「玄冬」と続くんです。僕は人生100年のうち、0歳から10歳と90歳から100歳を「ぼんやり期」と呼んでて(笑)。「ぼんやり期」以外の80年は、10歳から30歳が「青春」、30歳から50歳が「朱夏」、50歳から70歳が「白秋」、70歳から90歳が「玄冬」と綺麗にわけられる。だから僕らはいま、夏の始まりにいるんですよね。すごく情熱的でエネルギッシュだけど、暑くて苦しい時期でもある。50歳以降は過ごしやすい秋。成し遂げたり諦めたりして、穏やかだけどちょっぴり寂しそう。70歳を超えるとついに冬が始まるので、身支度を始めるイメージ。そういうわけで平成は、まさに青春を捧げた季節だったなと思います。