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祭祀場所の移転・再生、続く旧来の信仰 山内健治さん「基地と聖地の沖縄史」

 現在も米軍基地の面積が土地の8%を占める沖縄県。その基地内外に残る聖地などを調査した『基地と聖地の沖縄史』(吉川弘文館)が刊行された。

 著者は明治大学の山内健治教授(文化人類学)。聖地は地元の人々が信仰の対象にしている場所を指し、火の神、川の神、井戸の神などが祭られている。

 「入りにくいということもあり、基地内や基地周辺の村落に関わる調査は、研究者にも避けられてきた傾向がある」と山内教授。沖縄戦後に米軍政府などによって土地の接収が行われた結果、集落だけでなく、聖地なども移転や新たな設置を余儀なくされた。本書では、トリイ通信施設やボーローポイント射撃場(読谷村)など、本島中部の米軍施設を中心に、時系列を追いながら、移転先での祭祀(さいし)のあり方や、今なお基地内にあって参詣(さんけい)などが黙認されている旧聖地の現状、土地が返還された結果、旧集落に聖地が再生されたケースなどを報告していく。

 淡々とした書きぶりだが、20年に及ぶフィールドワークの成果を下敷きにしただけあって、中身は濃い。逃げることのできない基地という存在と対峙(たいじ)しながら、共同体の人々がいかに旧来の信仰を保持してきたかを考える貴重な記録だ。(編集委員・宮代栄一)=朝日新聞2019年4月3日掲載