けれん味のない直球のタイトル。ただ、美しい食材の写真をちりばめた本ではない。料理本を批評的に読み、考えるというユニークで変化球的な「料理本の本」である。
著者は映画研究者。なぜ食について? 大学院時代に料理を始めたことがきっかけだ。自主映画を撮っていたのと同じ創作への関心から、食に目覚めたという。「色んな料理本を読み、未知のメソッドを試す楽しい時間でした。他者の生き方や生活の様相を事細かに示すのが映画の魅力なら、それは食や料理本にも言えることなのです」と語る。
目を通したのは約500冊。レシピ本に限らない。だしを引くために「かつお節削りを削れ」とまで説く丸元淑生の著書から、簡素化した調理法が特長の小林カツ代や栗原はるみについての研究書まで。読み解くことで、「ファスト」や「ジャンク」に浸り、逆に有機野菜の流行や「一汁一菜」の考えも生まれる、この国の姿が浮き上がってくる。
現代の食をめぐる状況については、研究テーマのサスペンス映画になぞらえ、こう話す。足場をなくした宙づり(サスペンス)の状態にある、と。「地域の伝統的な調理法が親から子へ意識せずに継承されてゆく時代はとっくに終わり、生活を支える足場は失われました。自分が何を食べているか分からないことなんて、しょっちゅうあるわけですから」
出身地、福島県で起きた原発事故と食への影響について書かれた本にも触れ、複雑な心境すらも筆致にのぞかせる。「危機が足元にあったのに、事故が起こるまで意識していなかった。食について書くならば、まさにサスペンスの状態にあった出自をも見つめる必要があったのです」
ユーモアも交えた軽やかなエッセーだが、重いテーマも無視しない。食に、苦みや酸味があるように。(文・写真 小峰健二)=朝日新聞2019年4月6日掲載
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