経済危機下のギリシャで財務大臣を務めた経済学者が、十代の娘に経済について語るという設定だが、単なるマネー教育の本ではない。「とんでもなくわかりやすい」だけでなく、とんでもなくおもしろいのだ。
「どうして世の中にはこんなに格差があるの?」。そんな娘の問いを起点に、壮大な思考の旅が始まる。人類の歴史をたどりながら経済の本質に迫り、資本主義の何たるかを解き明かす……。ギリシャ神話や『フランケンシュタイン』、SF映画「マトリックス」など、古今の物語からの引用も効果的。知的好奇心を刺激するドラマチックな展開に、ぐいぐい引き込まれる。
著者によれば、すべては農作物の余剰から始まったという。余剰を記録するために文字が生まれ、債務や通貨や国家が、そして軍隊や宗教が生まれた。詳しい説明は本書に譲るが、一冊で仮想通貨や公的債務の是非、環境問題まで網羅しているのも驚きだ。
中世における宗教と同様に、現代では経済学が支配者の権力維持に使われているという。科学的に思える経済理論も、資本主義の正当性を裏付けるため編み出されたもの。つまり経済を“専門家”にゆだねてはならぬと説く。=朝日新聞2019年4月6日掲載
編集部一押し!
- オーサー・ビジット 教室編 本を読む、夢を追って努力する、人生おもしろくなる! 小説家・今村翔吾さん@山口市立大殿中学校 中津海麻子
-
- 売れてる本 山崎元「経済評論家の父から息子への手紙」 真実を突く経済論と人生論 片岡剛士
-
- インタビュー 「エドワード・サイード ある批評家の残響」中井亜佐子さんインタビュー 研究・批評通じパレスチナを発信した生涯 篠原諄也
- 小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。 【特別版】井上荒野さん「その人にしか書き得なかったものを読みたい」 小説家になりたい人が、小説を選ぶ人に聞いてみた。 清繭子
- 家族って、何だろう? peco さん「My Life」インタビュー 「新しい家族のかたち」そして永遠の別れ。彼への愛は揺るがない かわむらあみり
- インタビュー 小泉今日子さん「ホントのコイズミさん NARRATIVE」インタビュー これからも、本の魅力を声で伝えていく 吉野太一郎
- インタビュー 新井紀子さん×山本康一さん対談(後編) 辞書は民主主義のよりどころ PR by 三省堂
- インタビュー 新井紀子さん×山本康一さん対談(前編) 「AI時代」の辞書の役割とは PR by 三省堂
- インタビュー 村山由佳さん「二人キリ」インタビュー 性愛の極北に至ったはみ出し者の純粋さに向き合う PR by 集英社
- 朝日ブックアカデミー 専門外の本を読もう 鈴木哲也・京大学術出版会編集長が語る「学術書の読み方」 PR by 京都大学学術出版会
- 朝日ブックアカデミー 獣医師の仕事に胸が熱く 藤岡陽子さんが語る執筆の舞台裏 「リラの花咲くけものみち」刊行記念トークイベント PR by 光文社
- 朝日ブックアカデミー 内なる読者を大切に 月村了衛さんが語る「作家とはなにか」 「半暮刻」刊行記念トークイベント PR by 双葉社