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そろそろ日本も「移民」のはなしをしよう 望月優大さんが語る外国人受け入れ新制度の問題点

文:篠原諄也 写真:斉藤順子

外国人受け入れの「建前」と「現実」

――なぜ「移民」をテーマに本を書いたのでしょう?

 もともと「移民」をテーマに活発に活動をはじめたのは、2017年にウェブメディア「ニッポン複雑紀行」を難民支援協会と立ち上げたのがきっかけでした。国内の「移民」の人々にインタビューをして、その暮らしや文化の多様さを発信しています。「外国人」や「移民」といった言葉で一括りにされがちですが、一人ひとりに色々な人生がある。その複雑さを伝えたいと思って、運営してきました。

 ただ、そうした活動をする中で、個別の人生のストーリーだけでなく、マクロな視点で日本の移民問題を捉えることの必要性を感じました。在留外国人数の推移などの統計資料を見たり、「移民」についての学術書やルポを読んで勉強しました。その学んだプロセスを、一般の方々にも共有したいと思いました。

――「はじめに」で「日本もすでに『移民の時代』に突入しつつある」と書いています。移民問題と向き合わないといけない時期にきたということですね。

 アメリカやイギリスなどの多くの先進国で、移民問題は長年重要なトピックでした。しかし、日本では奇妙なほどそのような議論がありませんでした。朝鮮半島や中国など近隣の国から来た人々に対しての差別的な言説が問題となることはありました。しかし、特に90年代以降にやってきた「ニューカマー」と呼ばれる人々について、「移民」の問題として捉えようとしてこなかったように感じます。

――なぜでしょう?

 日本の人々は、自分たちをピュアで混じり気のないものとしてアイデンティファイ(自己認識)してきたきらいがあります。「自分たちは単一民族国家だ」と考える人が多くいます。しかし、経済的な環境が時代と共に移り変わり、外国人の低賃金労働者をどんどん受け入れてきました。現実と自己認識に非常に大きな乖離が生まれてきました。

――本の中では、政府の外国人受け入れの際の「建前」も、現実と大きく乖離していることを指摘していますね。具体的にどういうことでしょう?

 与党には「保守」と「財界」の両方の支持層がいます。「保守」は日本がピュアであってほしいから、外国人は入ってきてほしくない。「財界」は人手が足りないから、外国から低賃金労働者を受け入れたい。両者の間でバランスをとるために、政府は「定住しない外国人を受け入れる」ということをやってきました。短期の労働者のみ受け入れをし、家族の帯同を伴う長期的な定住は忌避してきました。

 また、政府はそうした外国人労働者を「移民」と呼んでいません。「移民」は「入国時点で永住権を持つ外国人」だと狭い定義をしています。実際は何らかの在留資格で入ってきて、何年か在留した後に移住資格を申請するケースが多いので、「日本には『移民』がほぼいない」ということになっています。

――政府は「移民」という言葉を避けていると。望月さんが「移民」という言葉を使うのはなぜですか?

 「『移民』はほぼいない」という建前になっていることで、本当は直視しないといけない問題が見えなくなっていると感じます。だからこそ「移民」という言葉を使いたいという思いがあります。

 そもそも「移民」という言葉は、国連などが様々な定義をしていますが、誰もが納得できる定義づけはむずかしい。僕個人としては「移民」をもっと自由に捉えたいと思います。たとえば「国内移民」という言葉があります。国境を越えなくても、国内で移動する人も「移民」だという考え方です。

 大阪で生まれて、東京で働いている人は「国内移民」ということができます。彼ら彼女らが東京で感じていることは、中国の人が東京で感じていることと重なる部分があるかもしれません。「移民」と「日本人」と二つに分断して捉えるのではなく、日本人の中にも「移民性」はあるという考え方を大事にしたいと思っています。

新たな在留資格「特定技能」の問題点

――外国人受け入れ拡大のため、4月から新しい在留資格「特定技能」が創設されます。この制度をどう評価しますか?

 今回の法改正は多くの問題点があると思っています。そもそも「技能実習」の延長版として構想されている面があります。これまでの制度がなくなるわけではありません。すでに様々な問題が顕在化しているにも関わらず、精算されず温存されたままです。

――「技能実習」の制度の問題点とは?

 大きな問題は、技能実習生が人権侵害的な状況に置かれやすい状況になっていることです。具体的には、給料・残業代の未払い、セクハラ・パワハラなどの問題があります。そうしたブラックな労働環境であっても、実習生が逃げないように会社が様々なことをやっている。たとえば、パスポートを預かったり、給料から勝手に天引きしたお金を貯金として預かったりしているケースもあります。もちろん、すべての職場がひどい環境であるとは限りませんが、どんな職場に派遣されるかは運試しの状態になっているのが実情です。

 また、日本に来る際に騙されているケースもあります。「日本で稼げるから初期費用の100万円を払ってください」という業者がいる。しかし、日本に来ても、全然稼げない。職場環境はブラックである。絶望し逃げ場がなくなって、失踪するしかないところまで追い込まれる。メディアで「失踪した実習生が万引きをした」といった事件が報道されることがありますが、逃げざるをえない状況に追い込んでしまった制度自体に、根本的な問題があるように思います。

――そんな「技能実習」の制度にも「建前」と「現実」の乖離があると本で指摘していますね。

 そもそも、日本が90年代に外国人労働者の受け入れ拡大をした時の建前は、専門・技術のある人は受け入れるが、低賃金の単純労働者は受け入れないということでした。しかし、実態は全く逆で、低賃金の労働者がたくさん入ってきた。その受け皿のひとつが技能実習生でした。

 また、技能実習制度の建前は、先進国の日本が発展途上国に技術などの移転をするという国際協力でした。つまり、日本の職場で身につけた技術を持ち帰って、自国の発展に活かしてもらう、と。しかし、その建前とは裏腹に、表向きは認められていない低賃金の出稼ぎ労働者を受け入れる制度として機能してきたわけです。

――他に今回の法改正の問題点はありますか?

 本当に現実を見つめて、真摯に作った制度だとは思えません。たとえば、出入国在留管理庁という法務省の外局が他の省庁と連携して、「特定技能」の管理をすることになりました。しかし、出入国を取り締まるような省庁ではなく、厚労省や文科省など、もっと生活に寄り添った省庁が関わるべきだと思います。

「当たり前を押し付けない」社会に

――望月さんが考える理想的な移民政策とは?

 「移民」の受け入れ方は、誰もが納得する正解はないと思っています。たとえば難民であれば、難民条約に加盟している国は、ある基準に達していたら受け入れないといけない。しかし、経済的な理由で来る「移民」については、それぞれの国の裁量に任されています。だからこそ、皆でしっかり考えて決めないといけません。

 僕が思っているのは、受け入れられる人数を受け入れるべきだということです。既存の社会と統合するのに、必要なコストやリソースがあることが重要です。たとえば、日本語教育などの仕組みを整えるなどし、しっかりと彼ら彼女らをサポートしないといけないと思います。

――「移民」受け入れの議論の際に出る「国民の雇用を奪うのでは?」という意見について、どう考えますか?

 それは程度の問題だと思います。「奪いません」というのも嘘だと思っています。しかし、そもそも「奪う」「奪わない」の二元論では語れません。1人が入ってくるのと1000万人が入ってくるのでは全く違うわけです。どれくらいの数は受け入れることが可能なのか。しっかりと考えるべきだと思います。

 また、そもそも「移民」受け入れの議論が進んでいるのは、少子高齢化で現役世代が減っていることが理由のひとつです。介護などの高齢者向けのサービスで、人材が足りない仕事がたくさんある。そのギャップを埋めるために、受け入れを拡大するのだということを認識したほうがいいと思います。

――アメリカやイギリスなどの先進国の一部の人々の移民排斥の動きについて、どう考えていますか?

 そうした先進国で共通で起こっているのは、もともと国民である低賃金の労働者が、外国人に責任を転嫁していることです。「自分たちが今貧しいのは、外国人が入ってきたからだ」という発想になっている。本来は一緒になって、労働環境の改善を求める仲間であるはずなのに、分断が起きてしまっている。

 そして、非常に不幸なことですが、移民排斥というトピックは人間の直感に働きかける力が強いため、政治家の強い戦術になっています。それはあくまで「釣り」だと認識しないといけないと思います。

――多様なバックグラウンドの人々と共生していくために、どのような心構えが必要でしょう?

 日常的なレベルでいうと「当たり前を押し付けない」ことは大切だと思います。「これくらいは知ってて当たり前だよね」といった、暗黙の了解を求めない雰囲気にしていく。「日本語が喋れない可能性もあるよね」というくらいの気持ちでいて、相手に対する期待値を下げていく。

 また「外国人」や「移民」と一括りに捉えられがちですが、一人ひとりに人格があることを想像することも重要だと思います。「ニッポン複雑紀行」では、今後もそうしたことをしっかりと伝えていきたい。もしも「移民」に何か悪い印象を持っている人がいたら、「イメージと違うな」と思ってもらいたいです。

――望月さんの今後の活動の展望を教えてください。

 これからも日本に移民問題があるということを発信し、それを考える土壌を作っていきたいと思います。ネガティブでもポジティブでもなく、フラットに語り合える問題にしていきたいです。

 そして「民主主義」を使える社会になるように、微力でも貢献したいと思っています。外国人受け入れの制度は政府が勝手に利用しているように批判をしていますが、ある意味では、国民の合意のもとで作っている側面もあると言えるかもしれません。

 ニュースを見て「この制度は良くないな」と思ったら、どうしたらいいのかを考えることが大事だと思います。どんな人を、どんな在留資格で受け入れて、将来の日本をどう作っていくのか。自分たちで考え、関わることで、決めていけるはずです。