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還暦迎えた収集癖の偉人が大いに語る みうらじゅんさん「マイ遺品セレクション」

文:永井美帆、写真:有村蓮

――本には、みうらさんが集めてきた「マイ遺品」の中から56のコレクションが収録されています。セレクトはどういった基準で?

 これ、産経新聞でやらせてもらっている「収集癖と発表癖」っていう月イチの連載をまとめた本なんですよ。俺、新聞って基本的に「初見ロール」の人が多いと思ってますから。ロッケンロールじゃなくてね(笑)。だから、新聞って他のメディアより丁寧に書かないと伝わらないと思ってます。俺のやってることを新聞で初めて認識する人のために、とりわけ分かりやすいものをセレクトしたつもりです。この本に載ってる「マイ遺品」も、知ってる人が見れば「あ、まだやってる」ってなるかもしれませんけど。

――そうやって発表を続けてきたことで「マイ遺品」の魅力が伝わっている実感はありますか?

 基本、ネットを見ないんで、反応とか全然分からないんだけど、こうやって取材に来てもらえるってことは、ちょっとは反応してくれているんじゃないですかね。これまでに120冊くらいの本を出しましたけど、こうやって取材に来て頂けるものは数冊だけですから(笑)。最近、ようやく自分のやってることが分かってきたんですけどね、俺ってお笑いだったんですよね。どうやら、俺に期待されていたことってお笑いで、自覚がなかったけども。この本で、「R-1ぐらんぷり」に出場してる気持ちです。だから、ちゃんとウケを狙ってセレクトしたつもりですから、皆さんに読んでもらっても大丈夫です。何もボーッと集めてきたわけじゃないです。捨てていいものは、ちゃんと捨ててますから(笑)。そこは本当、ピュアな趣味人とはわけ違うんで。

――いつから「マイ遺品」のようなものを集めてるんですか?

 小1から始めた怪獣スクラップからですね。でも、小3の時にテレビで「ウルトラQ」っていう特撮ドラマが始まって、全国的に怪獣ブームになったんですよ。でも俺はそんな世に蔓延(まんえん)したブームに乗っかるのが嫌で、急に「仏像だ!」って言い出したんです。小学生にしては未開拓だった仏像にわざわざシフトしたんですね。京都に住んでたから、いろんなお寺を巡って、仏像に関する記事をスクラップして。ものを集めて、誰かに見せるという「収集癖と発表癖」は、そこから始まりました。思えば、「一人電通」(ネタ出しからネーミング、デザイン、執筆、広報活動まで全て一人で行う、みうら流の仕事術)のいばら道もそこから始まっていたのかもしれないですね。

――ここまでたくさん集めるのは大変だったんじゃないですか?

 別に大好きで集めてるわけじゃないので、逆に楽しいです。無理して集める。その行為に笑いが生まれるわけですから。興味のない趣味の話をされても、つまんないでしょ? だから、「はじめは興味なかったけど、集めることにして好きになった」ってことでやってます。すると、みんなは「この人は努力してるんだ」「何のためかは分からないけど、どんな努力だろう」と思い、ようやく聞いてくれるんです。だから、「向いてない映画のパンフ」を集めるのだって、努力ですよ。シルバー料金の人は「チア☆ダン」とか見ないでしょ。「近キョリ恋愛」とか「PとJK」とか見ないわけで。そういうジジイに向いてない映画を女子高生に囲まれながら、顔から火が出るくらい恥ずかしい思いをしてパンフを買うのがグッとくるんですよ。

――それは恥ずかしそう……。他にも集めるのに苦労した「マイ遺品」はありますか?

 「アウトドア般若心経」をやり出した時はね、街の看板で般若心経の全278文字を見つけ、一文字ずつ写真に撮るってやつなんですけど、全部集めるのに3年以上かかりました。探して歩いてる時、お巡りさんから職質されても理由が言えないんですよ。平日昼間っからプラプラしてるし、高いところにある看板を撮るために望遠レンズも持って歩いてますから。「何してるんですか?」って聞かれても、「般若心経の一文字一文字を集めてるんです」なんて言ったら、「ちょっと署まで来て下さい」でしょ。完全に不審人物でしょ(笑)。

――苦労というと、1日に数本しかないバスの時刻表「地獄表」とか、どうやって見つけたんですか?

 それは本当、偶然なんですよ。山形の湯殿山に伝わる即身仏を見に行った時に、間違ってだいぶ手前のバス停で降りちゃったんです。時刻表を見ると、次のバスが来るまで1時間半以上あって、「これは地獄表だ!」ってキーワードが頭に浮かんだんです。そしたら、「ひょっとして、1日1本しか来ない所もあるんじゃないか……」って気になりだして、それ以降探していたんですが、実際あったんです、鹿児島に。1日1本って、行ったら帰って来られないじゃないですか。行きっぱなし。何なら、来ない方が気が楽でしょ。意味分かんないですけどね(笑)。

 「マイ遺品」ってのも、もともとなかった概念で、俺が勝手に言ってるだけ。でも、ない概念も一つ作れば、途端にあるんですよ。冬になると関西地区の旅行会社前にあるパンフレットスタンドを真っ赤に染めるカニツアーのパンフ、通称「カニパン」ってあるでしょ。何十年も集めてますから、そりゃ量もハンパないです。それをズラッと並べただけで、「現代アートだ」って勘違いしてくれる人が出てくるかもしれないですよね。バンクシーみたいに(笑)。あのシュレッダーで裁断されるやつ、俺だったらカニパンですね。何十枚のカニのパンフレットがシュレッダーで粉々になってる様子はアートに違いありません。

――今では保管のための倉庫まで借りてるんですよね。これからも集め続けていきますか?

 還暦を迎えて、周りから「そろそろ整理した方が……」って言われることもありますが、絶対捨てねえぞ!ってね。ジジイになってがぜんハッスルです。「マイ遺品」っていうタイトルもね、50代で使っていたら怒られるんじゃないか、でもまあ、60歳超えたら許してもらえるだろうって、待ってたんですよ。還暦を迎えたことで迫力が違いますから(笑)。

――これからも収集を続けて下さい。続編も期待しています!

 ありがとうございます。俺みたいな収集癖のある人は、どうせ捨てるなんて出来ないと思いますから、「マイ遺品」だと肝に銘じて、正しく残して下さい。俺が死んだ後、誰か俺の博物館を建ててくれませんかね? そのためにも、今からしっかり記録に残しておきますから。よろしくお願いしますね(笑)。