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川端康成が残した書を本に 自筆の箱書きや友人の墨跡、読み解く

 川端康成は美術品のコレクターとしても知られていた。2016年末に神奈川県鎌倉市の川端邸から見つかった70点以上の書や絵画が『川端康成と書――文人たちの墨跡』(求龍堂)にまとまった。島崎藤村、夏目漱石、芥川龍之介……近代文学史そのまま、文豪の名前が並ぶ。

 著者は遺品の整理にかかわった川端康成記念会の水原園博専務理事。川端が集めた書は書庫に眠っていた。生涯を通じて親友だった横光利一の書は「蟻(あり) 臺上に餓(う)えて 月高し」。納めた木箱に「形見として千代子夫人よりいただきし名筆」と川端の箱書きがあり、入手経緯もわかった。

横光利一書「蟻臺上に餓えて月高し」=川端康成記念会提供

 家族ぐるみのつきあいだったという林芙美子の書には、句や短歌があった。やはり箱書きに、川端の筆跡で「小拙宅に来(きた)り一泊せし夕飯時 酒盃(しゅはい)を傾けつつ書きし」。酒をくみ交わし、目の前で歌を書いた和やかな一夜が想像される。

 様々な作家の筆跡を読み、それぞれの背景を知ることが必要だ。「まだ読み切れていないものも多い。川端と書の関係の研究はこれからです」

 川端の研究はこれから。和洋女子大の深澤晴美さんも同じ言葉を口にする。深澤さんは川端の内容見本に注目した。内容見本とは全集や書籍の広告のパンフレット。日本近代文学館、神奈川近代文学館で、川端が文を寄せた内容見本を65件確認した。当時、川端には言葉を寄せてという依頼が殺到していた。

 作家名で検索できず、1点ずつ閲覧して探したという。三島由紀夫『禁色(きんじき)』に「背徳への誘ひの書」「驚嘆すべき美しさ」。谷崎潤一郎『瘋癲(ふうてん)老人日記』を「谷崎氏の文学生涯が遂(つい)にここまで来たかと思へる名作」と絶賛。『少年世界美術全集』は「幼い頃からよきもの、美しきものに慣れ親しむのは大切なことだ」。子ども向けの全集は積極的に言葉を寄せていた。

 「いずれも全集未収録。これほどあるとは」と深澤さん。「寄せた文から川端の熱が伝わってきます」(中村真理子)=朝日新聞2019年4月10日掲載