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エンジ色の絨毯、重厚な木製の扉・・・怪し気な雰囲気の先に広がる新しいクラフトビールの世界

文・イラスト:藤原ヒロユキ

To The Beer Bar~ちょいのみ親父の探訪記~ 第45回「カンティーナ」(東京・新宿)

 「カンティーナ」は新宿5丁目のビルの2階にある。すぐ裏は吉本興業東京本部、ゴールデン街、さらにそのむこうには歌舞伎町が広がっている。

 店のエントランスは明治通りに面しているが、エンジ色の絨毯が敷かれた細い階段を登らなくては、店内にたどり着くことはできない。
 階段の両側にはウイスキーやスピリッツの空き瓶がビッシリと並び、頭上にはシャンデリアが下がっている。階段は踊り場で180度に折れ、さらに上ると小さな覗き窓のある重厚な木製の扉が待ちうける。怪し気な雰囲気が漂う。
 フリ、いわゆる一見の客で、この階段を上りきり、扉を開ける客は、かなりの手練れか剛の者に違いない。「カンティーナ」は、御世辞にも"入りやすい店"とは言えない。

 私がこの店に通うようになったのは、私が代表を務める日本ビアジャーナリスト協会事務所がこのビルの隣にあり、この場所を私も"目をつけていた"からだ(笑)。
 ある方から「新宿でビアバーをやりたいのだが、いい物件はないか?」という相談を受けていて、ここが空いたと聞いて飛んでいったのだが、タッチの差で「もう決まっちゃいました」と言われた。そんなわけで、店がオープンした際に「どんな店になったんだろうか?」と覗きに行ったのがきっかけである。
 抑えめの照明、ぶ厚い木のカウンター、鮮やかな魚が泳ぐ水槽。いい感じである。常陸野ネストビールのホワイトエール、ギネス、シメイなどビールメニューもしっかりしているのが気に入った。

 日本ビアジャーナリスト協会は、「ビールの素晴らしさを伝える」ことを目的に、2010年に発足した一般社団法人である。2012年からは後進の育成のためにビアジャーナリストアカデミーを開いており、すでに260人を超える修了生がいる。(次の開講は14期で既に満席。15期は本年11月上旬に開講、募集開始は日本ビアジャーナリスト協会の公式サイト で8月の予定)

 修了生は、日本ビアジャーナリスト協会の公式サイト(毎日更新中)、JBJAチャンネルのMC、「ビール王国」誌や各種メディアへの執筆、テレビやラジオへの出演、イベントのオーガナイズ、ビアパブ経営などと幅広く活躍中である。
 なかでも、1期生の富江弘幸は2015年に"1年365日、それぞれの日に飲むべきビール"をエピソードとともに紹介した『BEER CALENDAR』(ステレオサウンド社)、2019年3月にはビールの歴史から造り方、ビアスタイル、料理とのペアリングなどをわかりやすく解説した『教養としてのビール』(SBクリエイティブ)を上梓している。

 2018年、「カンティーナ」に嬉しい変化があった。
 キリンが提唱したタップマルシェが導入されたのだ。

 タップマルシェは、3リットル入りのペットボトルに詰められたクラフトビールを4つ繋ぐことができる商品である。通常、生ビールの樽は15リットルか20リットルなので、4種類用意するには、60〜80リットルのビールと交換用の樽を置いておくスペースが必要だった。タップマルシェなら、狭いスペースで4種類のドラフトビールが提供できるのだ。
 他にも利点はある。ペットボトル入りなので、樽を返却する必要もないし、タップと繋がるラインが短いので洗浄のロスも少ない。

 一部のクラフトビール・ファンの中には、タップマルシェに否定的な人もいる。彼らは「自分たちが開拓したフィールドを大手が奪いに来た」と言うが、はたしてそうだろうか?

 クラフトビール(当初は地ビールと呼ばれていた)解禁から25年間で、シェアを10%や15%に広げていたのなら、大手参入を「開拓地の横取り」と非難してもいい。しかし、1%程度にしか広げられなかったのが現状である。むしろ、クラフトビールという言葉を一般に広めてくれたとは考えられないのだろうか?

 また、“クラフトビール=数人が手作業でビール造りをしている”と思い込んでいる人は、アメリカのクラフトビールの現場を見てきて欲しい。年間70万キロリットル近く醸造するメーカーもあり、その規模は日本の大手ビールの醸造所を凌ぐ大きさである。 

 さらに、タップマルシェの導入店は「クラフトビールに興味を持った店」といった証明でもある。
 私がクラフトビールメーカーの営業マンなら、タップマルシェのある店に飛び込み営業をしようと思う。店頭に貼られたタップマルシェの黄・白・赤の三色(ちなみに、自由・対等・ビール愛を意味する)のステッカーは、ある種のマーキングなのである。

 そして、私がクラフトビールの造り手ならば、タップマルシェに仲間入りすることを目標にするに違いない。
 タップマルシェにビールを提供することは、「オフフレーバー(醸造家が意図していないフレーバ)の無いビールを恒常的に造り続けることができる」ということが認められたということだからだ。

 今日のタップマルシェにはどんなビールが繋がっているのだろうか? 
 SVB、グランドキリン、ブルックリンラガー、よなよなエール、常陸野ネストビール、伊勢角屋麦酒、ファーイースト、ひでじビール、DHCビール、KONISHI BEER、金しゃちビール?
 新宿5丁目の怪しげ(笑)な階段を上り、今日は何から飲もうか?

 新宿の「カンティーナ」。
 本当に、いい店だ。また訪れたくなる。