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子ども向けの科学絵本「かがくのとも」 ノンフィクションをおもしろく伝えて50年

文:日下淳子、写真:斉藤順子

――福音館書店の月刊絵本「かがくのとも」は、今年で創刊50周年。身近な植物から動物、宇宙、数学、身体、衣食住にいたるまで、子どもたちの好奇心の種を育てる科学絵本だ。知識や情報より、まずは楽しさやおもしろさを伝えることを大切に作ってきた作品は、50年間で600冊を超えている。「かがくのとも」の9代目編集長となる川鍋雅則さんに、50周年の想いを聞いた。

 「かがくのとも」が創刊した1969年頃は、「子ども向けの科学絵本」というものが、まだしっかり確立していなかった頃で、それなら福音館書店で出そうということで始まったと聞いています。科学とはいっても、子ども向けの本は、まずおもしろくなければいけません。絵本の題材が、フィクションなのか、ノンフィクションなのかという違いだけで、他の本と同じように物語性を大事にしています。子どもの興味をひいて、そこから興味の対象をどんどん広げていってほしい。この「かがくのとも」は入り口であって、そこで興味を持ったことを図鑑で見たり、実際に出かけたり、一緒に読むお父さんお母さんも、へえ、そうだったんだと楽しんでもらえたらいいなとも思っています。

――2019年4月には、50年分の「かがくのとも」を集約した『かがくのとものもと』が発売された。どの年代にも懐かしい作品が必ずあるであろう、600余の作品すべての表紙とあらすじに加え、50年間の「かがくのとも」がどうやって作られていったかが収められている。川鍋さんにとって印象的だった本は何だったのだろうか。

『かがくのとものもと』(福音館書店)より 1970年度-1971年度発行のかがくのとも
『かがくのとものもと』(福音館書店)より 1970年度-1971年度発行のかがくのとも

 読者の反応が早かった1冊に、澤口たまみさんの『わたしのあかちゃん』があります。生まれたての赤ちゃんを、お世話するお母さんの目線から描いた作品です。その昔、「かがくのとも」で原稿を募集していたころがあったんですが、たくさん応募があった中で、ほぼ半数以上が、出産にまつわる話でした。お母さんにとって出産のこと、赤ちゃんのことっていうのは、それだけ一世一代の大きな出来事なんだなと思わされました。その後この『わたしのあかちゃん』という作品を出したときには、すぐに反響がありました。他の本だと、月刊誌を単行本化するのに3年ぐらいかかるのですが、これはすぐ決まって、短期間で単行本になりましたし、ロングセラーになった1冊ですね。

 逆に、昔「ごきぶり」を題材にしたときは、大反響……すごいマイナスの大反響がありました(笑)。さすがに単行本にはならなかったですね。同じ嫌われ者でも『やぶかのはなし』はけっこう人気があるんですよ。長新太さんが蚊の目線でおもしろく描いています。物語として楽しむことで、蚊の生態ってすごくわかると思うんです。大人になってから「ああ、だから蚊はこんなところにわくのか」というように、どこかでつながってくれればいいかなと思っています。

 「かがくのとも」は教科書じゃなく、物語として楽しめるものを作っているので、上から与えるようなものにはしたくないんです。教科書のように章立てして筋道をたてて、分類学的な見地から描くというよりは、道を歩いて行って目につく順に描いていることも多いです。日常の中に即した見せ方、描き方を、心がけています。

『かがくのとものもと』(福音館書店)より
『かがくのとものもと』(福音館書店)より

 「かがくのとも」は月刊誌だったので、いまではバックナンバーとして手に入らないものもあります。これまでの作品の中で、1/6程度が単行本としてハードカバーになったんですが、残ったものは本当にロングセラーばかりですね。毎年2、3冊の割合で新たに「かがくのともえほん」として単行本になっていますから、そのまま20年後、30年後と読まれ続けていていければいいなと思います。

 また、今回かがくのとも50周年記念の特別サイトをたちあげたのですが、単行本の109点に対し、合わせて楽しみたい1冊をご紹介する「かがくのとも+1」という企画がのっています。1冊の「かがくのとも」から、さらに別の世界が広がっていくということを感じてほしいと、社員が企画しました。作者の他に、著名人や書店員の皆さんにもご協力いただいてセレクトしましたので、大人にも興味を広げていただければと思っています。

川鍋さん推薦! かがくのとも歴代のヒット作3選

■はははのはなし(加古里子、1971年)
 幼稚園や歯医者さんに必ず1冊あった本で、ぼくも子どもの頃に読んだ記憶のある本。これを読むと、ちゃんと歯を磨かなきゃなって思います。決して教条的でないけれど、歯のことをきちんと描いていて、酸が歯を溶かすところなんか怖いですよね。子どもに対して教えてあげようという上から目線ではなくて、こういうものですよという世界を描くのが、加古里子さんは本当にうまい。この本は、今でも売れ続けている本のひとつです。

■ちのはなし(堀内誠一、1970年)
 まず堀内誠一さんの絵が印象的です。色の使い方がうまくて、今でもこのポップさは、すごく心に響くものがあります。赤血球、白血球、血管の見せ方は、いまだに古さを感じさせません。体から出てくるものって、子どもたちも好きですよね。うんち、おしっこ、鼻くそとか…。血もそのひとつで、自分の体の中にあるものを紐解いて、見せていくおもしろさがあります。本当に身近なものを知るという喜びを味わえる本なのではないかと思います。

■みんなうんち(五味太郎、1977年)
 うんちは、生きているものなら誰もがするという普遍的なテーマ。出版当初は「うんち」を題材にするなんて、眉をひそめるような内容だったと思いますが、やっぱり子どもはうんちが好きです。非常に深い内容で、最後の「いきものはたべるから みんなうんちをするんだね」という言葉にすべてが集約されていますよね。生き物って何?うんちをするものだよっていうところを描いている、シンプルながらすぐれた科学絵本ではないかと思います。外国語にも翻訳されていて、ヨーロッパでも売れている本なんですよ。