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「アナザーユートピア」書評 「余白」でない公共空間めざす

評者: 間宮陽介 / 朝⽇新聞掲載:2019年05月11日
アナザーユートピア 「オープンスペース」から都市を考える 著者:槇 文彦 出版社:NTT出版 ジャンル:技術・工学・農学

ISBN: 9784757160774
発売⽇: 2019/03/02
サイズ: 21cm/16,260p

アナザーユートピア 「オープンスペース」から都市を考える [編著]槇文彦、真壁智治

 人物画や静物画の主役は人や果物である。では背景はその余白かというと、そんなことはない。人相書きや果物屋の看板と違って、画家は背景にも心血を注ぐであろう。
 都市も同じことである。都市は本来、建物とオープンスペースの一体であるはずだ。よく図と地の関係として表現される両者の関係は主と従の関係ではない。オープンスペースは建物のたんなる余白ではない。
 このような考えはなにも目新しいものではない。建築家をはじめとする多くの論者がオープンスペースの重要性を説いてきた。古代ギリシャのアゴラを見よ。中世の広場を見よ。これらは市民たちの公共生活の場所であり、その意味での公共空間ではなかったか、と。しかし建築家や都市計画家がつくったのは、国際会議場や虹色に輝く現代美術館を売り物とする(擬似的)公共空間であった。
 本書のタイトル『アナザーユートピア』のアナザーとは、空き地を見つければ建物で埋めなくてはすまない現代都市へのアナザーであるとともに、アゴラとは似ても似つかぬ、こぎれいな公共空間に対するアナザーでもある。そしてめざすユートピアとは、都市の図と地、陽画と陰画を反転させ、オープンスペースを主役とする都市である。
 本書は、建築家・槇文彦の問題提起に対して、17人の建築、都市、および周辺領域の専門家が応答するという形をとった論文集である。シンポジウムの質疑応答を文字化したといった体のものではなく、論文に対して論文で応える正真正銘の論文集。
 お仕着せの公共空間がなぜ人々を孤独にさせるのか。オープンスペースと人間のふるまいとの関係は?都市に対してもつ原風景としての原っぱ。こうした論点をめぐって、さまざまな角度から議論が深められる。本書は都市のオープンスペースを考え、都市の公共空間を考える者が手にすべき必読の書物である。
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 まき・ふみひこ 1928年生まれ。建築家▽まかべ・ともはる 1943年生まれ。プロジェクトプランナー。