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自分の価値観に合ったビールが選べる それは自分に正直になれる喜び

文・イラスト:藤原ヒロユキ

To The Beer Bar~ちょいのみ親父の探訪記~ 第48回「クラフトビアマーケット 虎ノ門店」(東京・虎ノ門)

 1994年、酒税法が改正された。
 それ以前は年間2000キロリットル以上を醸造できなければ取得できなかったビール醸造免許が年間60キロリットル以上に引き下げられたのだ。
 これにより、日本各地に小規模なビール醸造所が出来、地ビールブームと呼ばれる現象が起きた。
 このブームは2000年をあたりをピークに、その後は徐々に下火となり、2002年頃には「地ビールブームは終わった」と言われることになる。

 なぜ、地ビールブームは終わってしまったのか?

 まず、多くの地ビールメーカーが“ビールについて勉強せずに醸造を始めた”ことにある。ブームに乗り、ほんの数週間の研修を受けただけでビール造りを始めたという話をあちこちで聞いた。なかには機材を設置した際に使い方をレクチャーされただけで「ドイツ人の〇〇さんに習った」と豪語する強者もいた。
 そのため、“ちゃんとしたビールが造れない”醸造所がいくつかあった。いや、むしろそのようなケースがほとんどで、“ちゃんとしたビールが造れる”醸造所は全体の10%程度だったと記憶している。そのため、多くの消費者が「地ビールってのを飲んでみたが、不味くて飲みづらい」=「2度と買わない」という現象がおきてしまった。

 また、消費者側もビールについて知識がなく、また知ろうという意識も薄く、「ビールは黄金色で炭酸がシュワシュワしていて、キンキンに冷やしてグビグビプハーと喉越しが良ければいい」という考え方が根強かった。ビアスタイルはおろか銘柄すら興味のない時代だった。「そんなのなんだっていいよ。ビールはビール。みんな同じでしょぉ」といった感じであった。
 以上のようなことが原因で、“地ビールブーム”は、10年もつことなく終わってしまった。

 そんな地ビール(小規模な醸造所で造られるビール)が、ここ数年、クラフトビールという名前のもとに復活してきた。
 なぜ、再び注目を浴びるようになったのか?

 まず、クラフトビールが世界的に広がっていて、その流れが日本にも押し寄せてきた。
 クラフトビールとは、1960年代中頃にアメリカで始まった、「伝統的なビール」を軸足に「独創的なビール」を造るムーブメントである。
 クラフトビールの老舗ブルックリン・ブルワリーの創業者スティーブ・ヒンディ著の『クラフトビール革命 地域を変えたアメリカの小さな地ビール起業』を読むと、アメリカでクラフトビール業界がどのように成長していったかを知ることができる。元AP記者という肩書きを持つヒンディ氏ならではの洞察力に基づく名著なので、ぜひお読みいただきたい。

 また、東日本大地震以降、多くの日本人の価値観が多様化したことも理由のひとつと考えられる。自分にとって何が本当に大切なのか? を考えることになったのだ(その対局がバブル期の価値観である。自分自身の好き嫌いよりもみんなから「すごいね」と評価される高級車に乗り、ブランド・ファッションに身を包み、一等地のマンションに住むことが重要だった)。

 今、一般的な大手ビールに比べて値段が高いクラフトビールを好む人々の全てが富裕層なのか? 答えはNoである。車やファッションや住む場所よりも、美味しいビールにお金をかける、という人達だ(もちろん逆も真なりで、「高いビールなんて飲むよりも車や服にお金を使いたい」という人もいる)。クラフトビールは“全ての人に受け入れられるビール”ではなく、ビール(もしくは飲食全般)に高い価値観を持っている人達に支持され、人気が高まってきたのだ。

 しかし、ここで問題になるのが、全ての人に受け入れられるものではない=一部のマニアだけが楽しむ閉鎖的なカルチャーになってしまわないか? ということである。
 そんな危惧を払拭してくれたのが「クラフトビアマーケット」だ。

 虎ノ門に1号店が2011年にオープンし、現在は11軒を数える。
 クラフトビールを飲んだ経験が無い、または経験値が低い人でもわかりやすいように、メニューをスタイルや色ごとに分けて表示している。
 ま、それは他のビアバーでも見かけるが、「クラフトビアマーケット」では、値段が全て同じというところが面白い。他の店には無い“わかりやすさ”である。値段の違いに臆することなく、純粋に選ぶことができる。
 30種類のビールから自分の価値観に合ったビールを選ぶ。それは、自分に正直になれる喜びでもある。

 虎ノ門の「クラフトビアマーケット 虎ノ門店」。
 本当に、いい店だ。また訪れたくなる。